かいがいしさ
「ヤトラお姉ちゃん終わったよー」
翌日、良く晴れた日だ。
強い日差しが木漏れ日となって降り注ぎ、薬草たちが影を求めてゆらゆらと葉を揺らす中、トリシャが戻ってきた。
手にはどこから採ってきたのかアケビを抱えている。
もうそんな時期かと思うと、半年で一万株というのがどれだけ異様な数なのかを改めて実感させられる。
「じゃあ午後は薬草を植えに行こうか」
「はーい」
元気な返事が響くと、どこからともなく現れたファイにトリシャが手を引かれて家の裏へと消えていく。
しばらくしたら大きな音が響いてきたので、一緒に魔法の訓練をしているのだろう。
あの様子だと果たしてトリシャは二人から解放されるかどうか。
「他にはジャウとラウダに……、ラウダはダメか」
ラウダは先日トリシャが作った井戸に今度は屋根をつけると張り切っており、朝から木材を見繕うため出ていった。木こりの血が騒ぐのだろう。
ラッシーとミーリはまだガジャルから戻ってきていない。
まだファイとヒュージを森の中に連れ出すのは時期尚早だと思うし、魔法の訓練を飽きずにやっているので大人しく待ってくれているだろう。
となれば連れて行けるのはジャウだけだ。
「さっさとお昼にするか」
大きな葉にくるまれた、ウサギ肉をアイテム袋から取り出す。
続いて香草やフライパンまでもアイテム袋から取り出すと、ヤトラは竈で調理を始めた。
魔物や動物が匂いを嗅ぎつけて寄ってくるといけないので精霊には匂いを上空高くまで飛ばすように言ってある。
以前ミーリが焼いておいたパンを取り出し、切れ目を入れる。
さっと湯通しした薬草と焼けた肉を挟んでいけばミートサンドの完成だ。
トリシャ達三人には持っていき、訓練の休憩にでも食べるよう渡す。
戻ってきたらジャウがお茶を淹れていた。
どこか甲斐々々《かいがい》しく働く様に、実はつい先日まで男の子だったと言われて信じるだろうか。
「……いや、そもそも性別を変えるなんてこと出来ないんだから信じないだろさ」
「ヤトラ姉、どうしたの?」
気にするなと手を振り、ヤトラは木漏れ日のもと、食卓につく。
ふと思えばこの食卓も野ざらしなので、あとでラウダに頼んで屋根でもつけてもらう。
「食べたら薬草を植えに行こうか。ついでに土魔法も教えてあげるよ」
「わかった」
娯楽が少ない生活でもジャウはあまり文句を言わない。
ここにたどり着くまでの苦労もあるだろうが、かと言って年頃の娘がいつまでも半隠居生活で狩りばかりというのも考え物だ。
それは他三人にも言える事。
農村の子供たちなどそんなものだと言えばそうかもしれないが、お金も食べ物にも困っていない現状、次に求めるのは娯楽だ。
そして娯楽は人を呼び込む。
人が来れば村は発展し、村の発展はさらなる人を集めるのだ。
村に認められてから行動したのでは遅い。これから秋が森を色鮮やかに染める季節を過ぎれば、厳しい冬が来る。
その時に人の往来があるかないかは、冬の生活を豊かに過ごせるかに関わる事だ。
ちなみに薬草は冬の寒さでも平気で育つので、半年後が厳冬であってもノルマ一万株については心配していない。いざとなれば魔法でなんとでもなる。
「——じゃあ行こうか」
食後のお茶までしっかり堪能した二人。
ジャウには弓もしっかり持たせていく。帰りにウサギでもと思うが、身を護る武具は常に携帯することに慣れてほしいのもある。
「ヤトラ姉、薬草は?」
「アイテム袋の中にあるよ」
トリシャにはファイとヒュージの相手を頼み、森に入る二人。
まずは北に行き、湖に出たら時計回りに回って九時あたりまで進む。
人食いカエルが出てくるが、難なくジャウが弓で仕留めるのでアイテム袋へと拾っていく。
それなりに知能があるのか、すこし倒したらそれ以上は襲ってこず、水面から顔を半分だけだしてこちらを見つめていた。
「目印がないとわかりにくいね」
湖の畔から再び森に入る。
ヤトラとしては迷ったら木々や草花に話しかければいいだけだが、普通の人ならそうはいかない。
「あとで看板でも立てて……いや、ラッシー曰く防犯のことも考えないといけないから、もっと目立たないようなものかな」
それでも人が往来すれば足跡はつく。
襲われない様にしてしまうのも手だが、いささか物騒うな魔法を使う事になるのも躊躇われるところだ。
なんてことを考えていたら開けた場所に出る。
比較的背の高い気が間隔をおいて均一に植わっている場所だ。地に落ちる木漏れ日がゆらゆらと舞い、どこか神聖な雰囲気を醸し出していた。
「随分広いところだねヤトラ姉。今の畑の一○倍くらい?」
「そうだね。これと同じ規模があと二つあるよ」
さて、まずはジャウに土魔法を教えて、緑豊かな絨毯をまずは耕していく事から始めなければならない。
* * *




