薬草増産体制
「半年で一万束か、まぁ何とかなるかな。——嗚呼、君。待ちたまえ、まだ先頭が詰まっているよ」
目の前に広がる光景に満足しながら適度に支持を飛ばす。
始祖レリアの加護をフル活用した、大木の引っ越しだ。大木が幾重にも伸びだ根を節足動物の様に使い、歩いている。
ヤトラは樹木たちの交通整理をしながら、二日前に慌てた様子でラッシーが帰ってきた様子を思い出す。
村として認めるためには薬草一万束。一束五枚とすれば実に五万枚もの薬草を集める必要がある。
そのためには広大な畑が必要だ。
幸い、増やすための核となる薬草は育っており、育て方も確立してきた。あとは場所さえ増やせばいい。
そんな訳で薬草畑を拡大しようとしたら、横やりを入れてきたのはラッシーだ。
「畑は森の奥で作れないか?大規模に栽培していることがばれたら、冒険者から盗賊まで押し寄せて来るぞ」
どうやらハイリー伯爵の入れ知恵らしく、薬草畑は村から少し離れたところで栽培する運びとなる。
それも複数個所に分けてだ。
理由はいくつかあるが、そもそも森の中で大きな畑を確保するのが難しい。大木を切り倒しても根は残り、掘り出すのも面倒。
さらにリスク分散も考えて、畑を分けようという考えだ。
もっとも、ハイエルフであり始祖レリアの加護を持つヤトラからすれば森の中に大規模な畑を構える事は造作もないのだが。
「けれど始祖レリアの加護を使うために、一旦私の加護を授けなければいけないが面倒だな」
先日に初めて始祖レリアの加護を用いた時のような、強力な加護じゃなくても良いというのが分かっただけでも助かった。
強力な加護だと折れない、燃えない、傷つかないという、樹木としては有るまじき性能になる。
そんなものを多用するわけにもいかないので、少しばかりの成長促進の加護を授けたところ、この程度でも動けることが分かったのだ。
そんなわけでヤトラは一人、畑に適した土地を探してくるという名目で、実際には大木を移動させてスペースを確保するという作業に追われている。
だいたい大木を二、三本引っこ抜けば畑としては十分なのだが、問題は彼らをどこに移動させるかだ。
最終的には多くの木々に加護を授け、ちょっとずつ移動してもらい、どうにか窮屈にならない程度の間隔で木々を植え替えていく。
「あーでも、村とかできたら大木をみっちり並べるのもいいなあ」
街道から村へと続く道に大木をびっしり並べたら壮観だろう。
木々からは抗議を受けるだろうが。
「さて、こんなところか」
アイテム袋から簡単な地図を取り出すと、現在地に印をつける。
ひとまず大木は退けたが、ここを畑として耕すのはトリシャの仕事だ。
結局風魔法があまり上手に扱えなかったトリシャには、ラッシーが王都に出ている間に地魔法を教えた。
地魔法なら魔力を込めれば込めた分だけ物量で攻撃できるので、トリシャでも使えそうとの判断だ。
いや、そもそもあの年で魔法をあれほど使える者などいないのだが。
「全部で三か所、か。魔物はいないみたいだけど、イノシシかな?動物の足跡はあるね」
となればラウダとジャウも一緒に行動させよう。護衛兼食料確保も出来れば御の字。
ヤトラは足早に帰ると家の裏手に出た。
ちょうど薪束を摘んでいたファイとヒュージが出迎えてくれる。が、いつも一緒にいるはずのトリシャの姿がない。
「トリシャちゃんは?」
「魔法の使い過ぎで疲れたって言って寝てる」
「ねてるー」
「……そっか」
今日の畑づくりはお預けだ。
それにしてもあれだけの魔力量を空にするとは、どんな魔法を使ったのか。
その答えは直ぐに分かった。
「なるほど……これは考えなかったな」
ここに住んでいる三軒がまとまって建っていたので気にしたこともなかったのだが、見れば見事な石畳の道が家へ畑へと伸びている。
更には井戸まであるではないか。
ラウダの入れ知恵だろうと検討をつけるが、それにしてもその造りはとても六歳児が作った物とは思えない。
湖から水路を引っ張ってきているとはいえ、薬草を入れるか煮沸しないと飲めない水はなかなかに不便である。
とはいえヤトラがトリシャに教えた魔法は土を操る魔法だけ。石を作り出したのは自分で考えたのだろうか。
感嘆ついでにトリシャの様子を見に行くが、ベッドで気持ちよさそうに寝ている姿を見るに完全な魔力切れというわけではなさそうなのでそのままにしておくことにしよう。
その横では意気揚々と井戸に取り付けるための滑車を作っているラウダ。
いや、何も言うまい。
玄関に弓が一張しかない様子だと、ジャウは狩りだろう。
「……ファイちゃんとヒュージ君でも見るか」
女性物の服はやはり女性に選んでもらった方がいいということで、ラッシーはガジャル連邦に妻のミーリと共に出かけている。
その間ヤトラが一緒に寝泊まりしているのだが、あれこれ手伝いを任せているので最近はあまり魔法を教えていないのを思い出す。
噂をすれば薪を運び終えたのか、二人が丁度家の裏から出てきた。
「二人とも、今日のお手伝いは終わったかい?」
「終わったよ、お姉ちゃん」
「たー」
「じゃあ魔法の練習をしようか」
久々にヤトラに見てもらえるとの事で、ジャンプしてはしゃぐ二人。井戸が広場に作られたので、場所を家の裏に変える。
ファイは既に風魔法ならある程度使いこなせるようにはなっていた。さらにラッシーからせがまれたこともあり、夜光草を食べたことで魔力量も上がっている。
狼族の子供にしては人族の同年代と大差ないくらいだ。
一方のヒュージは徐々に魔力を体外に放出することを覚えてきた。
まだ針の穴を通すような魔力しか出せてはいないのだが、逆に魔力コントロールしやすいので今は自由自在に操作することを練習している。
「じゃあまずはファイちゃんから、特訓の成果を見せてくれるかい?」
「うん!」
三メートルほど先に立つ棒。
いつぞやにジャウもやっていた、風魔法で棒を切る訓練だ。
ファイが息を整えて両手を前に出す。
手の先に濃い魔力が溜まるのを感じる。
「——サーチ」
呟くヤトラ。
対象は感知対象は魔力。
視界全てに魔力の濃淡が色を持って重なる。
濃い魔力は赤。薄い所は青といった具合だ。
その状態でファイを見れば手のひらの先、濃い赤が渦を巻いているのが分かるが、全身からは湯気の様に青の魔力が立ち上っている。
それだけ魔力を無駄にしている証左でもあり、ファイが使う魔法の精度が上がらない原因の一つでもある。
「はっ!」
両手に込められていた魔力が薄い筋となり、棒に向かう。
確かにそれは鋭い刃となって棒を襲うのだが、湯気の様な魔力のベールを通過するため、先端が幾分か削られる。
そのまま刃の潰れた風となり、棒を打ち付け、
「——切れないよねぇ」
魔法使いあるあるだ。
確かに放出する魔力は鋭い。
けれど魔力を無駄に垂れ流し、自分の魔力に邪魔されて上手く力が発揮できない。
当然ファイには魔力コントロールも教え込んでいるが、それでも得手不得手はある。
「じゃあ次は私がサポートするから、もう一度やってみて」
頷くファイは再び魔力を込める。
続くヤトラは人差し指を立て、強引に周囲の魔力を吸収し始めた。
魔力を視覚化し見る視界には、周囲に漂う希薄な魔力が強引な吸引力により真っ赤にしてヤトラに吸い込まれていくのが見える。
「落ち着いて、けれど素早く。あんまり長くやってるとどんどん魔力が吸われていくよ」
ヤトラが吸い込む魔力は当然、ファイから出ているのも吸収している。
先ほどよりはファイの周囲が青く、魔力が薄くなってくる。
「手に込める魔力もそうだけど、周囲の魔力を感じて。肌がひりつくような魔力の薄さ。これが精度を上げるコツだよ」
頷き一つ。ファイは魔力を放出した。
先程と同じ魔力は、しかし何物にも邪魔されることなく木の棒までたどり着き、風の刃として顕現する。
パアン、と弾けるような音と共に上半分が吹っ飛ぶ。
「……やった!」
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