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ハイエルフ様、生き急ぐ  作者: えだまめのさや
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接点の邂逅


「で、うちらに親善大使ってわけ?なんか子供のお使いみたいだなぁ」

「こらリーリエ。そんなこと言わないの。これも立派なお勤めよ」


でもよぉ、と頭の後ろに腕を組み先頭を歩くのは戦士リーリエ。燃えるような赤い髪に軽装な装備。しかし背負う大剣は並みの者では到底扱えないような大きさである。

対してその後ろに続く僧侶リーリエは黒いローブに白のインナーと修道女の姿。

小さな杖を腰に下げてはいるが、装備らしい装備は一切ない。


「——で、我らが勇者様は喜んでその仕事を受けてきたと。安請け合いしすぎじゃね?うちらが冒険者になればAランククラス、給金としては一日金貨三枚は固いんだぞ。それをこんなアイテム袋一つで受けちまって……」

「リーリエだってアイテム袋は欲しいって言ってたじゃない。それに魔人族との和平は私たちじゃないとできないんだから」


へいへい、とレヴィンのお叱りにリーリエは逃げるように街道を歩いていく。

向かう先はガジャル連邦。

魔法の研究が盛んな大小二○ほどの国が集まってできた国家。

あんまりいい思い出ないんだよなぁ。魔法使いは根暗だし奴隷は鉱山で死ぬまで働かされるし。

考えれば考えるほど足取りが重くなるのでやめた。


「しっかし街道も酷いもんだな。馬車も使えないしガジャルに向かうとあれば馬を貸してくれる宿もない。まぁいがみ合ってないだけましだけど」

「ガジャル連邦は我がファーシュタイン王国は仲こそよくありませんが、魔王討伐時には魔法使いの派遣に宝石の提供、さらには国宝である転送石まで貸与してくれた国です。今まで私たちがお礼参りにいかなかったことこそ失礼な対応でした」

「相変わらずお堅いねぇユゥイは」


王都を出てまだ一日。それなのにこの先に集落は無く、小さな野営地が数か所あるだけだ。

今はまだ草原だが、しばらくすると森に入る。

そこからひたすら同じ景色を眺めて歩くこと五日ほど。森が終わるとまた草原になり、ガジャル連邦だ。


「——待て、誰か来るぞ」


盗賊か?と背の大剣を握るが、盗賊がこんな草原の真ん中で襲ってくるとも思えない。馬に乗っていれば別だが、遠くに見える人影は小さく身軽に見える。


「商人の方でしょうか?少ないとはいえ、王都にもガジャル連邦産の宝石は出回っているとお聞きします」

「それなら是非とも話を聞きたいな。以前に私たちがガジャル連邦に行ったのも随分前だから。——リーリエもいつまでも大剣を握ってないで。怖がって逃げられちゃうよ」

「へいへい、悪うございやしたね」


しばらく歩けば相手も此方に気付いたようだ。

商人にしてはしっかりとした装備をしているが、それにしては馬も連れておらず、荷物も小さなリュックを背負っているだけ。普通であれば怪しむところだが、商人ならアイテム袋を持っていることもあるのでちょくちょく見かける光景だ。さらに狼族なので人族よりも体力も多いと見える。

そう、なんでもない普通の商人だと思った。


——ありゃあ兵士の歩き方だ。


後ろの二人があれこれと聞きたい事を相談しているのを尻目に、リーリエは一人警戒を強めていた。

狼族は大きく二つの区分がある。人間側についたか、魔人族側についたか、だ。

遥か昔、種族内の争いが発端で別れたのだという。故に今回の戦争では狼族の扱いは非常に危うさを伴っていた。

狼族の区別は狼族でしか分からない。魔人族側の狼族が人間側に忍び込んで内部から攻撃しようとしたこと数知れず。逆もまた然り。

そのため狼族は戦争の途中から戦場から排除された。それを役得と見るか、国家という後ろ盾がない冒険者にしかなれないと見るかはそれぞれだが。


「珍しいな、この道を俺以外に歩くやつがいるなんて。しかも女の子三人とは」

「こんにちは。私レヴィンって言います。ちょっとお話いいですか?ガジャルの事についてお聞きしたいんですけど」

「ああ、いいよ」


男はラッシーと名乗った。

宝石と絹を売り歩いている商人だ、ということらしい。

やりとりはレヴィンに任せ、リーリエは一歩下がってラッシーを注意深く観察する。

得物はなし。ブーツも履きなれているのかよれている。一瞬リーリエ達を襲うために用意された手練れかとも思ったが、杞憂きゆうのようだ。


「随分と警戒していますね。彼がなにか?」

「——ああいや、この前の事があったからな」

「そうですか。でも初対面の方を疑ってかかるような真似まね、あまり褒められたものではありません。もちろん、貴女に悪意がないのはわかっております」

「へいへい」


二週間ほど前のこと、三人が和平交渉のため魔人国へと出立した時だ。

まだまだファーシュタイン王国の領内だというのに、三人は数十人からなる郎党の襲撃を受けた。

誰も彼も三人に恨みつらみをぶつけてきた。

光魔法を消しさった裏切り者、か。文句なら女神さまに直接言ってほしいんだけどなぁ。

それほどまでにヒトは光魔法にしていた。いや、魔法全体に依存していると言ってもいいだろう。

火をおこす、桶に水を張る、埃を巻き上げて掃除、土を固めて道を作り、光で夜でも活動でき、闇によって昼間でも寝られる環境を作り出す。

不夜城として知られるファーシュタイン王国王都なら、その使用頻度は一層に顕著けんちょだった。


「——えっ、村ですか?」


驚いたように声をあげたレヴィンにリーリエとユゥイは視線を上げた。


「どうしましたかレヴィンさん。そんなに驚いて」

「この街道の途中、森の中に今、村を作っているんだって」


別に村を作るだなんて、珍しいことじゃない。

井戸の水が枯れただとか凶暴な魔物が住み着いただとかで、村を捨てる事はよくあることで、さらに別の場所に村を作ることをも然り。


「まだ正式じゃないけどな。知り合いの貴族様に相談して、村としての価値が認められればの話だ」

「……?村なんて勝手に作っていいのではないです?」

「そういう訳にもいかん。村を作ろうとしている場所は誰が領主なのか、税金をどうするか、誰を代表に立てるかとか考える事は一杯だ」

「はぁ……まったく新しい村を作る時って、大変なんですね。ラッシーさんもそこに住むんですか?」

「あぁ。元はガジャルにいたんだが、あそこは狼族は肩身が狭くてな。それと色々と縁があってな」


ふと、リーリエはレヴィンと一緒に育った故郷を思い出す。

戦場となってしまったあそこは、今どうなっているだろうか。


「ま、無事手続きが終わって村になったらあんた達も是非来てくれ。——きっと驚くぞ」


含み笑いで頷くラッシーに、三人は曖昧に頷く。村人が大体自慢するのは案外しょうもない特産品だったりするのは、勇者一行として旅をして学んだことの一つだ。

ラッシーと別れたあと、三人は再び草原の中、を進める。


「そう言えばガジャルはどうだって?」

「鉱山の採掘作業で出た怪我人を治すのに薬草がたくさん必要とかで、需要はファーシュタインよりも高いみたい。けど光魔法が消えたからと言って混乱はあまりないみたい。逆に光魔法の代替魔法を研究するとかで、魔法使いはやる気に満ちてるから絹が飛ぶように売れるって」

「うちらも絹でも買い込んだ方が一儲けできたな」

「リーリエ。どこの国に訪問先で商売する親善大使がいますか」


ユゥイにじっとりと睨まれた。

冗談だよと笑って返すが、ユゥイの目がそろそろ据わってきたのでリーリエも口をつむぐ。


「それにしても森の中に村を作るだなんて、すごいね」

「そうですか?勇者様なら作ろうと思えばすぐ作れそうな気もしますが」


そういうことじゃないよ、とレヴィンが首を振る。

ちなみにユゥイはレヴィンを勇者様と呼ぶ。ただそれだと余計な騒ぎを起こす事があるので、先ほどのラッシーの時の様に、こちらの正体に気付いていない場合はレヴィン呼びだ。

レヴィンとしても勇者様呼びは止めさせたいようだが、案外頑固なユゥイは頑なに話を聞かず、結局そのままである。


「まぁ確かに、この先の森に村を作ろうというのは、確かにすごいことですね」

「そうでしょ?森の中なら食べ物とか案外あったりするのかもしれないけど」

「いえ、そうではなくてですね勇者様——」


ユゥイが目を細め、草原の遥か先に見える緑の稜線を見やる。


「かの森は王国直轄領。そこに村を作ろうなどと、普通の人なら思いもよらぬことですよ」


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