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ハイエルフ様、生き急ぐ  作者: えだまめのさや
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王国


 いや、実際は多額の献金や寄付をすれば子爵や男爵程度であれば買える。しかしアイテム袋の量産は、軍事有用性の面から国が必ず仲介するので面倒なので避けたい。

 それにヤトラとしては薬草を売りにすることで、別の目的があった。


「私はね、ここを村にして薬草の一大供給地にしたいと考えているんだ。つまりは領地経営。そのためには男爵くらいの地位が欲しい」

「おいおい正気か?確かに薬草は育てられるが、こんな何もない所に村を作るだあ?」

「いやラッシー殿。何もないからこそいいのでは?これが鉱山などの近くであったら権益の問題が生じるが、幸いここには何もない。そこから薬草を売りますよ、と提案があれば乗らない国はあるまい。儂も村営会議にはよく出ていたものでな。何もないところから薬草の供給と税金が入ってくるのであれば国は何も言わんさ」

「そういうこと。あとはラッシー、君の腕次第だね」

「まじかよ……」


 もっとも、村を新しく興すというのがどういう手順を踏めばいいかまでは、流石のヤトラも分からない。

 本来ならこの森を領地としている領主に対して請願せいがんすればいいのだろうが、生憎あいにくとここがどの領地に属しているか分からない。


「ラッシーにはまずここが誰の領地で、そこに渡りをつける事が出来るかどうかだね。先日ファーシュタイン王国に行ったときは貴族に薬草売れたんだろ?そこからどうにか出来ないかな」

「んー……、薬草を手土産に持っていけば無下むげにはされねぇとは思う」


 実際、薬草があれば買い取るとも話したのだ。

 その時に相談すればいいだろう。


「最終的には私が出向いて税収やらなんやらの調整は必要だろうけど、まずはそこまでの渡り、頼んだよ」


 * * *


 ファーシュタイン王国王都、ファーシュタインは城下に人口一○○万人を抱える大都市である。

 全体は約五○○年前に造られた荘厳な石組みの王城を中心に据え、円形に広がる城下が形成されており、国境を超えて人や物が出入りし、不夜城として常に動き続けている。

 そんな城下を一望できる王城の中心、ファーシュタイン国王の執務室はあった。


「——計画の変更を、せねばなるまい」


 国王、ファブニル・フォン・ファーシュタインは煌びやかな装飾が施された、到底執務として使うには不向きであろう机の上に、王冠を置く。

 その王冠を指で弾けば、シャランと爽やかな音色が響く。


「現在までの薬草の備蓄、勇者の動向、騎士団の再編はどうなっているか」

「——は。薬草は既に三か月分を備蓄。しかし薬草の栽培に関しては難航を極め、冒険者ギルドを通じた薬草の収集も効率をかなり下げております。騎士団は先日の暴動以降、訓練を徹底させるように。また魔法使いのみによる部隊の結成も進めております」


 宰相であるヴァンの言葉に、王は嘆息する。

 魔王討伐まではすべてが順調だった。

 ファーシュタイン王国は勇者パーティの中に忍ばせた間諜から周辺国の状況、それも勇者パーティという立場を利用した機密情報を受け、どこと手を組み、どこに攻め入るかの算段を綿密に行っていた。

 ファーシュタイン王国は非常に大きな国である。この大陸では一、二を争うほどだ。それでも国を拡大し続ける訳は、海を越えた先にある。

 数年前、ファーシュタイン王国の西、海に面している地が海を越えてきた蛮族に占領されたのだ。

 当時は魔王討伐に兵力を傾けており、最低限の防衛網しか構築できず、その機を逃さずして奴らは攻め入ってきた。


「蛮族をつまみ出すのは当然。しかし我らの怒りはそれだけにおさまらず。分かっておるだろうな」

「重々承知しております」


 受けた報い、屈辱は何倍にもして返す。

 ファーシュタイン王国は蛮族平定の為、魔王討伐後に大規模な戦争を仕掛けるつもりであった。

 しかしそれには憂いも残る。

 海を越えてしまえば、ファーシュタイン王国の守りが手薄になるのだ。

 まずは地盤を固めるために、周辺国を吸収しようというのだ。


「魔王との戦争で疲弊した国のいくつかは、すでに内密にわが国との併合を望んでいるところもあると聞きます。——ただ、その他の国々までも併合しようとなると、戦争は避けられませぬ」

「分かっておる。だが必要な事だ。同盟でも協定でもなく、我が国が吸収しなければ」


 計画は魔王討伐後、速やかに実施される予定だった。

 疲弊国の併合と戦争を起こすための偶発的事故の算段、他国の反乱軍の養成。

 だが、全ては光魔法の消失と共に延期を余儀なくされた。


「忌々しい。あやつのせいで全てが台無しぞ」

「王。内心をあまり口に出しませんように」


 わかっておる、と国王は努めて平静を装う。

 過ぎたことは仕方がないが、それに光魔法が使えない事は利する部分もある。とくに蛮族どもなぞ、今頃さぞ慌てている事だろう。

 そう思うと幾分胸がすく思いだ。


「蛮族にとっては回復魔法こそ戦線を支えてきた要。それがない今、物量で押すという強引な手も打ちやすくはなった」

「監視の報告では、奴らも薬草を求めて散り散りになっているとか。兵には周囲の森を焼くよう手配してあります」


 攻め入ってきた蛮族は決して多い数ではない。それでも今まで手出しが出来なかったのは魔王討伐もあったが、兵の練度と得物の差が大きかった。

 ファーシュタイン王国は騎士の国である。

 故に得物は剣と盾。しかし蛮族は槍だ。そこでまずリーチの差が生まれる。さらに海を越えてきたのは蛮族どもの精鋭であれば、物量で押しても奴らは死を恐れずに立ち向かい、逆に此方は優秀な者を王都に抱えてしまっているために、地方の兵では歯が立たない。

 だが、それも回復魔法が使えて出来る芸当だ。

 死を恐れないのはそれだけ優秀な魔法使いがいるから。

 しかし女神が光魔法を消し去ったことで、状況は図らずしも好転の兆しを見せている。

 と、にわかに扉の外が騒がしくなる。


「——また、勇者か」


 嘆息と同時、廊下で控えている騎士をものともせず、勇者が扉を蹴破るかの如く入ってきた。


「王よ!これはどういうことか!」


 * * *

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