アイテム袋の原型
そうなのか、とヤトラは思案する。
確かに魔力を放出する経路の太い細いはある。それも才能だ。
けれどヒュージから感じたのは出口すらもない、完全密閉された世界。
はたしてそんな事があり得るのか。
いくら魔力が少ないとはいえ、ごく少量ずつ魔力は回復する。それが密閉された空間であれば、いつまでたっても消費されない魔力でパンパンに膨れ上がる。
ではなぜヒュージは無事なのか。なにか魔力を消費する方法が他にあるのか
「——ともあれヒュージには気を付けてくれ。ジャウとトリシャには私からも言い含めておくけど、どこかで話が漏れるかも分からないからね」
それから、とヤトラはラウダとラッシーそれぞれに鮮やかな緑の袋を手渡した。ひと食いカエルで作った物だ。
「そのカエル、なかなかに厚みのある皮でね。色はちょっとあれなんだけど、空間魔法を掛けてある。ある程度の物なら入るはずだから、便利に使ってくれ」
「つまりアイテム袋ってことか?」
「うーん……似ているんだけど、ちょっと違うかな。どっちかというと、アイテム袋の原型かな」
「オリジナル?」
ラッシーが不思議そうな目で袋を見ている。
「すまんがヤトラ。そもそっもアイテム袋とやらはなんだ?」
「ラウダは初めて見るのか。言ってしまえば何でも入る袋だよ。特殊な魔法がかけてあって、この袋より大きなものでも何でも入るんだ」
そんな物があるのか、とラウダは目を見開き、しげしげと袋の中をのぞく。
うん、いい反応だよラウダ。案外大昔からあるけどね。
なにせこの原型を生み出したのはハイエルフの始祖レリア。
稀代の天才がイメージで作り出したオリジナルから逆算して、どうすればアイテム袋を作れのか。
当時の魔法の権威らが必死に考えて考え抜いた結果、空間魔法というのが生まれた。
空間魔法とはそれまでにない、火・水・風・地の四魔法全てを用いて作られた新たな魔法である。
魔法はイメージではあるが、それでもイメージしにくいものはある。その代表格が空間魔法だ。
何をもって空間と定義するのか、そこになければいけないモノはなんなのか。どうすれば魔法が具現化するのか。
空間というキーワードだけではあまりにも漠然としすぎていて、レリア以外にアイテム袋を作れるものがいなかったのだが、それをどうにか型にはめ込むことが出来たのだ。
これにより人が作り上げてきた四つの魔法体系の複合発展形として空間魔法が定義された。
その後も光・闇魔法の確立により、空間魔法は改良を施されてきた。
しかしながら四つの魔法を重ね合わせて実現するこの魔法、難易度は半端なものではなく、さらに消費する魔力も多いことから、アイテム袋を作れる魔法使いは極めて少ない。
さらに軍事利用可能な事から、その製作には国の許可が必要だったりと制約も多いのだが、正直作れるものが少なすぎて作りたくても作れないというのが現状だ。
「つまり、ヤトラはこの袋に空間魔法を掛けたと」
「はっはっは。ラウダ、この私を誰だと思っているんだい?空間魔法はあくまで人が使う体系的な魔法。これはね、原型だよ」
「さっきからオリジナルオリジナルって言っているが、何が違うんだか俺にはさっぱりなんだが」
確かにアイテム袋と原型に、見た目的な差異はない。カエルの皮で作ったから非常に見た目があれだけど。それにこんな悪趣味ともいえる色の袋がアイテム袋だとは誰も思わないだろう。
「かつてハイエルフの始祖レリアが創りだしたそれは、時を止める効果があった。——わかるかい?袋に入れているだけで冷たいものは冷たいまま、温かいものは温かいままで保存される」
「そんな事が可能なのか……?」
「俺もきいたことねえぞ?」
これこそイメージから作り出した魔法と、体型から編み出した魔法の違いである。
「魔法はイメージを具現化するものであり、不可能なんてない。だから魔法なんだ。人が編み出した魔法体系も悪くはないけど、あれはどっちかというと学問に近いかな。ただ魔法の敷居を下げた、という点では始祖レリアもかなり評価していたみたいだね」
と、ここまで偉そうにしてきても、ヤトラにも限界はあった。
「原型とほぼ同じとは言え、完璧なものは流石の私でも作れなかったよ。いまここにあるのは時を止めるのではなく、非常にゆっくりと時を進めるものだ。一か月程度は入れた時のままで品質が保てるよ。薬草を売りに行く時もこれで万全だね」
「一か月でも相当だぞ。これを売るだけで白金貨数枚が来るな」
白金貨とは金貨百枚分。庶民じゃ生きている間に見ることはまずないし、そもそも額が大きすぎて王族や貴族じゃないと取引できない単位だ。
「私が欲しいのはお金じゃなくて地位だよ」
「前も立場だとかそんな事言っていたが、具体的にどうするよ。薬草を売り続けても地位なんて貰えんぞ」




