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ハイエルフ様、生き急ぐ  作者: えだまめのさや
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怪しい売りもの


「薬草もそうだが、この夜光草、普通に売りものになるぞ」


 ラッシーが森に住み着くことで一番心配したのが明かりだ。

 以前であればライトの魔法で明かりくらいどうとでもなったが、今は違う。

 森の中でも火は起こせるが、家の中で使うとなるとやはり心配になるものだ。

 だからこそ、ここにきて一番に驚いたのが夜に光る謎の植物。

 あまりにもヤトラやラウダが普通に使っている物だから、そういうものなのかと聞かないでいた。


「ガジャル連邦は魔法使いの国だろう?夜光草を知らないなんて事はないはずだ」


 そうは言うが、ラッシーは一○年もの間カテナに住んでいて、それらしきものをみたことは無い。

 魔法使いがいつも買い求めるのは魔力を通しやすい絹であったり、増幅できる宝石だ。


「魔法使いが草を買い求めているなんて、聞いたことが無いな。そもそもカテナにいる魔法使いは魔力切れなんて滅多に起こさないぞ。なんでも魔力切れは魔法使いの恥だ、とかで。だから皆効率よく魔力を通せる絹だったり宝石を買うんだ」

「……本当に?」

「嘘言ってどうするよ」

「つまり魔法使いにとって魔力切れは恥という認識がいつの間にか広がり、夜光草はたんなる照明器具になり果てた。そこにライトの魔法が広まったことで、完全に姿を消したと」


 ……そうなるのか?

 ラッシーは頭を掻きながら、カテナにいたソーロコ爺に聞けばすぐわかるだろうにとも思う。しばらくガジャル連邦にはいかない予定なので、すこし先までお預けだ。


「ヤトラよ。その夜光草とやら、儂には怪しく思えるんだが」

「……今それを考えてた。夜光草は確かに魔力回復の効能がある。それを恥という一言で片づけるのは理解しがたいし、別に魔力切れになる前に摂取すればいいだけ。それなのに、ガジャル連邦の魔法使いはそれを拒否した」

「となると、副作用か?宝石も過剰に使いすぎると宝石の中にある毒素が術者に入ってくるとか言っていたな」

「うーん、私の知っている限りだと夜光草に副作用なんてないはずなんだけど」

「けどよ、ラウダのとこの子に共通しているのはそれくらいなんだろ?」


 それに、もし本当に夜光草で魔力量が上がるのであれば、これは薬草とは違う意味で商売になる。

 ただし売るのはファーシュタイン王国か、恥などどうでもいい魔法使いに、だろう。

 それに、


「もし夜光草で魔力量が増えたんなら、ファイとヒュージにも食わせてやりてぇなあ」


 狼族は種族柄、魔法に長けたものはいない。

 けれど本能的に戦う事が好きなものが多いため、男女問わず冒険者や騎士になるものが多い。

 故に前線で盾となりつるぎとなり、死にゆく者も多い。

 いつかファイもヒュージも冒険者になりたいと言い出す時が来るかもしれないと思うと、親心としては止めてほしいと思うと同時に、憧れを尊重したい気持ちもある。

 自分がそうだったように。


「知っての通り、狼族は魔法が使えねぇ。常に腕っぷしと脚で戦う種族だ。だからこそ、命を守るためにも魔法が使えればどんなに安心して戦えるか」

「まるで戦場いくさばに出たことがあるような者の言い方だね」

「——出たことがあるんだよ、昔な。一端いっぱしの軍隊に配属されて、戦場に出た。そこでたくさんの同族異種族が身一つで戦って死んだ。俺は運よく生き延びれたが、次は俺の番だと思ってな。死の匂いを感じたというか。だから逃げ出したんだ」

「ファイもヒュージも、同じ道を辿ると?」

「狼族は元から血の気の多い種族だ。大半の奴は冒険者や騎士に、はたまた盗賊にすら身を落とすことが多い。自分の人生をどう生きるかは親が決めたくないが、けど生き残ってほしいとは思う」

「……そうだね」


 嘆息するヤトラ。


「正直、狼族が魔法まで使えるとなると、私はそれが良いことだとは思わない。それはあまりにもバランスブレイカーだ。世の中の力関係を壊しかねない」

「だろうな。下手すりゃ狼族だけで独立戦争が起きそうだ」


 戦場で切って跳んで魔法を打てる戦士か……。ファイならすぐにでも飛びついてきそうだな……。

 面倒見の良いファイは子供たちのリーダー的な存在にもなっていた。狼族だから子供でも腕力はあるし足も速い。

 そこに魔法まで使えるようになれば将来どうなることやら。いや、ラッシーにとっては楽しみしかない。


「……ラッシー、とても私の話を聞いた後でするとは思えないような表情でニヤついているけど、ちゃんと聞いてた?」

「聞いてた聞いてた。けどよ、本当に夜光草で魔力が上がるかどうかわからないんだろ?試さなくていいのかよ」

「その魂胆が見え見えな言葉に誰が乗るんだ、君も商売人だろう。それに自分の子供を実験台にするような言い回し」

「もちろん俺も食う、子供たちも食う。生きるため、強くなるためなら何でもするのが狼族だ」


 誇らしげにいわんでも、と再度嘆息するヤトラ。

 そもそもラッシーはヤトラが断るとは思っていない。

 夜光草の効能がはっきりしない以上、ヤトラも魔力切れの時においそれと使えなくなるのは困るだろう。

 それにこれは取引だ。


「別にヤトラが乗り気じゃないんだったらいいけどよ。けどその時は夜光草も俺に売らせてくれ」

「それは、夜光草をファイとヒュージにも食べさせれば、夜光草は売らないということだね?」

「……」


 いや、売りたい。めっちゃ売りたい。

 正直薬草だけだと危ない橋を渡りすぎている。夜光草なら普通に照明として使えるし、それなりに需要があるはずだ。

 根付きの良さから直ぐに同業他社も繁殖させて参入してくるだろうが、薬草と同じで夜光草もずっと使えるわけじゃない。枯れれば新しいのを買うしかないので、商人にしてみれば安定した商材になる。

 だからヤトラの問いかけには沈黙で返した。

 そんな中で、どこにいっても商人は商人だな、とラウダが笑う。


「ヤトラよ。秘密……かどうかは分からないが、夜光草を知ってしまった以上、ファイとヒュージにも与えないとラッシーは収まらない。であれば、もうどうにもできんよ」

「——はぁ、わかったわかった。ファイとヒュージにも夜光草は食べさせよう。けど、夜光草を売り物にするのは二人にどんな変化が起きるかしっかり確かめてから。あとラウダとラッシー、ミーリの皆にも食べてもらう。子供と大人じゃ効力が違うだろうし」


 ただし、とヤトラは続ける。


「ヒュージはすこし先になると思う。あの子はいわゆる魔法の才能がない子だ。そんな子が膨大な魔力を持ってしまえばそれは死に繋がりかねない。みっちり訓練して、最低でも風魔法を使える程度になったらだね」

「才能がないのに、魔力だけあっても意味はあるのか?」

「良い質問だねラウダ。正直私も魔法使いを弟子にしかとってこなかったから分からないんだけど、ヒュージは魔力を外、つまり魔法として具現化させるのがとてもしにくい体質でね」

「普通に考えれば魔法の才能がないのと同じだな。俺もそうだから分かるけどよ、ようは指先から出せる魔力がちょろっとしかでないんだ」


 ヒュージは人差し指の先から小さな炎を出す。


「俺はライトとこの魔法しか使えなくてな。しかもライトは女神さまに取り上げられたと来たもんだ」

「ちなみにだがラッシー。君はどれくらい《《それ》》を出していられるんだい?」

「この火か?魔力を切れるまで使ったことはないけどよ、小一時間なら出し続けていられるぜ。逆に俺は魔力を一気に出す、なんて芸当は出来ないけどな」

「なぜ?」


 無邪気な問い。

 エルフにこの感覚が伝わるのかと、ラッシーは火を消して苦笑。


「出ないんだよ。どれだけ指先に魔力を込めようが、出ていく魔力はつねに極細。出口が小さくて使えないのさ」


 * * *


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