魔法使いの恥
夜。
森の中は静寂が支配する。
夜空は見えず、一寸先は闇。
ただ小さな熾火が、三人の大人を暗闇から浮かび上がらせていた。
ヤトラ、ラウダ、ラッシーだ。
ラッシーがここに来てから三日。ラウダ達が来てから一か月近くは経とうかとしているのを思うと、ヤトラは封印された体より目覚めてから随分と環境が変わったと思う。
「ラウダ、ジャウの狩りはどうだい?」
「ああ。弓はまだまだだが筋は良い。贔屓目なしに、ちゃんと鍛えれば良い狩人になると思う」
またこの感触だ、とヤトラは気づかれない程度に顔を顰めた。
ラウダも知らないジャウとトリシャの意外な才能や能力の高さ。
前はキュクロプス族、今は人間。
更にジャウは性別まで変わっていることを考えればキュクロプスであった時の才能など何の参考にもならないとも思う一方で、人間に輪廻転生した後はあまりにも才能に恵まれすぎている。
それが強く出るのが魔力量の高さだ。
ジャウとトリシャについて魔力量を調べたところ、明らかに人間の子供が持つにしては大きすぎる魔力を持っていた。
測定方法が間違っているのかとも思って試しにファイの魔力を測ってみたら、こちらは狼族が持つ平均的な魔力より少ないくらい。
結論としては、やはりジャウとトリシャは何らかの影響を受けて魔力量が増えたと結論付けていい。
その何らか、というのは果たして輪廻転生だけで説明がつくのか。
ヤトラはそこが気がかりだった。
「ラウダ、ジャウとトリシャは前から魔力が高かったなんてことはないよね?」
「そうだな……村に住んでいた婆さんが魔法が使えたんだが、村の子供たちに魔力の扱い方みたいなのを教えていてな。儂も色々と教えてもらった事があるんだが、ジャウとトリシャについて魔力が多いとか才能があるなんてことは聞いたことがないな」
「……正直に言うと、ジャウとトリシャは明らかに同世代、いや、普通の魔法使いが持つ魔力よりも明らかに多い魔力を持っている。これは異常だ」
「そういう事もあんじゃねーの?」
口をはさんでくるラッシーに、ヤトラは首を振る。
それはあり得ないのだ。何故ならば。
「ジャウもトリシャも、魔法の訓練を始めてから魔力切れを起こして倒れている。その時は私が確認したし、使用した魔法も多くはない。わかるかい?とても今の二人の魔力が使い切れる量の魔法は使っていないんだ」
「じゃあどうして?魔力っていきなり増えるもんなのか?」
「それが分からないから困っているんじゃないか。確かに魔力は使えば使うほど増えるけど、いきなり魔力量が倍以上になるなんてことはないよ」
そんな事があれば世の中魔法使いだらけで、剣士と魔法使いのバランスなんて崩れ去るだろう。
「それにジャウの能力の高さも気になる。まだ一○歳でしかない子供が魔法と弓の才能の片鱗を見せ始めるなんて」
「いや、子供なんてそんなものだろうよ。狼族なんて下手すりゃヒュージくらいの子が魔物を狩ることもあるんだぞ」
「人間と狼族を比較にしたところで……まぁいい。おそらく才能の発現と魔力の増加は別だろう」
現にトリシャは魔力量こそ高いが、魔法の精度は上がらず、未だに刃が潰れたような風の刃で棒を叩きつけている。
やはり輪廻転生が原因?しかしそれならラウダにも何らかの影響が出ていいはずだが、今のところラウダから膨大な魔力を感じることもない。魔法の訓練をしていないからというのもあるかもしれないが、それでも子供だけにだけ現れるのもおかしい。
「……ダメだな。さっぱりわからん」
「ヤトラ。儂は魔法の事はよくわからんのだが、魔力が多くて困ることはあるのか?」
確かに魔法使いにとって、魔力の多さは魔法が使える数と同義。多ければ多いほど強力な魔法も放てるし、、同時にいくつもの魔法を打てる。
しかしそれはあくまで常識の範囲内であれば、だ。
「随分と昔、人間のくせに私よりも膨大な魔力を持つ弟子がいてね。知っているかい?体内に抱えきれないほどの魔力を持っていると、魔力酔いという、二日酔いに似た症状を引き起こすんだ。彼は自分のもつ膨大な魔力を消費しきれなくてね、常に魔法を使い続けて正気を保っていた」
「使い続ければ問題無いんだろ?ちょっと厄介かもしれないが、魔法使いにとっちゃあ夢の様な話だな」
「そう簡単な話じゃないんだよラッシー。魔力というのは体の奥底から常に少しづつ回復しているものでね。彼は寝るだけで自分の体が抱えられる魔力量を簡単に超えてしまうくらい魔力を回復してしまったのさ。だから目覚めは最悪。彼の日課は起きたらはるか上空まで浮遊して、極大魔法を太陽に向かって打つことだったそうだよ」
「……ジャウもトリシャもそうなると?」
「二人はまだそこまでの魔力量じゃない。だけど体の成長と魔力量がアンバランスすぎるから、魔力酔いに似た症状は出るだろう。かといって魔力酔いの解消はとにかく魔力を消費すること。となればある程度魔力をコントロールするためには訓練が必要だ。暴走して家を壊されるのも嫌だろう?」
「……そうだな」
だからこそ、ジャウとトリシャが何故これほどまでに多くの魔力を持つようになったのかが知りたい。
唸るヤトラに、熾火に小さな薪をくべるラウダ。
ラッシーはというと、非常に怖い顔をしていた。狼族特有の考え事をしている顔が一番怖いというやつだ。
「——前に、カテナで聞いたことがある。魔力を回復させる草について」
「夜光草のこと?」
「……そう、そうだ。夜光草だ。あれを食べると魔力を回復すると聞いたことがある」
それくらい知っている。だから魔力切れを起こしたジャウとトリシャにも食べさせ……、いや、認識がおかしい?夜光草が魔力を回復させることなど常識ではないのか?
「まってくれラッシー。夜光草が魔力を回復させるなど常識だろう?」
「何言ってんだヤトラ。森暮らしのお前さんは知らないかもしれないが、夜光草なんてカテナの町じゃまず見ない。見たこともない植物の特性を知っているわけないだろう」
「いや、夜光草で明かりを取るなど、普通の使い方があるじゃ……」
ふと、ヤトラは初めてラッシーとあった時の事を思い出す。
今ファーシュタイン王国ではどんなことが起きているか。
主な事は光魔法が使えないことで薬草がバブルになっているということだったが、もう一つあったはずだ。
——光魔法ライトの代替として火魔法を使用し、火事が頻発している。
* * *




