教え甲斐
そんなことはない。
確かに魔力は魔法を使えば使うほど増えるけど、そんな一朝一夕では増えない。
あれだけ魔法に憧れていたトリシャだからすぐにこうなることは予想出来たが、さてどうしたものか。
ジャウが案外と簡単に風魔法を習得出来てしまったのもあるだろう。
やれやれ、とヤトラは徐にトリシャを抱き上げ、汗で濡れてしまうのも構わずトリシャの顔を胸に埋めた。
先程ファイとヒュージにした事と同じ、魔力をトリシャに流し始めた。
それも全身を使ってだ。
魔力は全身から漏れ出すので、逆もまた然り。周囲が濃密な魔力に囲われていたら、自然と魔力を取り込んで回復する。
腕などから一気に渡すと魔力酔いの症状が簡単に出てしまうので、こうして少しずつ、しかし全身を使って吸収することで比較的早く魔力を回復できる。
ま、それも子供だから出来る芸当だけどね、色々な意味で。
「——ヤトラお姉ちゃん、つめたくてきもちいい……」
「熱中しすぎるのはお父さん譲りだねまったく」
子どもならではの高い体温を感じつつ、ふと、トリシャの魔力もどれだけあるのか確かめたくなった。
湿っている頭を撫でる手にすこしずつ魔力を込めていっては、どれくらいの早さでトリシャに吸い込まれるかを見る。
「……?」
おかしい。
しばらく続けているのだが、何時まで経っても込めた魔力が霧散、いや吸い込まれる。
魔力を込めても込めても一瞬でなくなる。
試しに手を離し、ある程度魔力を込めた状態の手で再度トリシャに触れると、忽ち魔力がトリシャの中に吸い込まれていくのだ。
「……はて?」
なんだろうこれは。
考えられる理由の一つは、すでにトリシャが魔力切れで倒れる寸前だったのではないか。
であれば体が魔力に飛びついてくるのもわかる。
しかし先日魔力切れで倒れた時に思ったのは、まだまだトリシャは魔力が少ないという事だ。
子供だから当然である。
であるというのに、すでにそれなりの魔力を渡している現状でもまだ吸収されていくこの現象はなんのか。
「トリシャちゃん。自分の中で魔力がどれくらい残っているかってわかるかい?」
「んーとね……はんぶんくらい」
「半分?」
子どもの言う事だから鵜呑みには出来ないけど、受け渡した魔力だけで本来であれば全快していてもいいくらいの量のはず。
それが、半分?
「……まぁそんなこともあるか」
深く考えるのは今度にしよう。
トリシャには地魔法を今度教えるとして、そろそろファイがいい感じに全身に魔力を巡らせてきたのが、放出している魔力を通して感じる。
それだけ魔力が漏れている、という事実だけど。
たいしてヒュージからは何も感じない。
魔力に対する密閉性はやはり高いのか、それとも上手く魔力を操作出来ていないのか。
しかめっ面はしていないからまったく魔力を操れていないとは思わないけど、ここまで探知できないのも珍しい。
……いや、どちらかと言えばこんな人の方がおおいのかな、と思う。
ヤトラは魔王であった時も、その前、大昔に魔法使いとして王都にいた時も、常に弟子や部下は魔法が普通に使える者達ばかりだった。
だからヒュージの様な、そのままであれば魔法の才能が一切ない者に会ったことがない。
しかしヤトラから見れば、魔力が体から漏れ出さないのも立派な才能である。
「うーん……なんか教え甲斐のある子達ばっかりだなぁ」
あ、ジャウはなんか一人で出来そうだからあれかな。
教師にとっては手のかかる子ほど一緒にいて楽しいものだ。
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