ハイエルフの加護
ぐっ、まさか本当にそんな噂になっていたとは。後で見つけ出して伐採……口を塞いでおかないと。
ともあれまずは彼をどうにかしよう。
抗議の悲鳴を無視してまずは低い枝を魔法で打ち落とす。
見栄えが幾分すっきりしたところで、魔法で根本を水場にする。
大木の根が水に滴る様はなんとも神秘的なものだね。
加護にはいくつか段階が存在する。
簡単なものからしっかりした儀式を行うものまで。大木程度の存在に授ける加護などなんでも良いのだが、周りの眼もあるため、ここは少しお高い加護を授けるとしよう。
「始祖レリアが授かり、受け継がれし力よ。今ここに彼の者を繋ぎとめる理を断ち切り、新たな役目を与えよ」
大木に触れる。
ガサガサした樹皮だが、ヤトラの指先が触れた瞬間にその形態を変え始めた。
波紋が広がるように波打ちながら、凸凹した表面はなめらかに、肌触りは絹の様にしっとりと、くすんだ灰色から真珠の様な表皮へと。
大木の根元から先端まで、変化に要した時間はほんのわずか。
「おや、随分とイケメンになったじゃないか」
かつて生えていた大木はもういない。あるのは神々しい、明らかに自然界で生えている樹木とは一線を画した存在。
『な、なんだこりゃあ……』
「説明しなきゃ分からないかね?」
『——いやいい。《《分かってきた》》』
「うむうむ。それは重畳」
存在の格が上がるという事はどういうことか。
喩えれば呼吸と同じだろう。人は意識せず呼吸をして酸素を取り込む。
それと同じだ。
意識しなくても、全てが世界から入ってくる。
あとは勝手に理解する。
であれば切っても文句言われまい。
まずは魔法で巨木をゆっくりと持ち上げる。
同時に根が地面の形を変えていくので、足場に気を付けながら作業を進めていく。
全部引き抜けたときには地上に出ている部分と同じほどの長さの根が現れた。
宙に浮き、根まで真珠色になった大木を前ににしてヤトラは次の行動に出る。
「出でよ、地精霊」
足元でポンッと愉快な音を立てて現れたのは、膝程までの体高があるモグラだ。
頭にヘルメット、手には小さいスコップで胴には腹巻というスタイルだ。久方ぶりに呼び出したのだが、変わりない姿に安心した。
「お久しぶりでごぜえやす」
「久しぶりだね。元気にしていたかい?久しぶりに呼んだというのに碌なおもてなしも出来なくて済まないんだが、ちょっと家が必要でね。あまり大きくなくていいんだ。この《《彼》》を使って建ててくれないかな?」
「こりゃまた……随分立派な加護で。久々に腕が鳴るってもんですわい。……それにしてもその裸同然の恰好はなんなんですかい?」
「色々あったんだよ。今は聞かないでおくれ」
モグラに「ちょっと離れていろ」と言われたので彼女、彼を囮として利用した大木の根に腰を下ろす。
と、上から声がした。
『ちょ、ちょっと貴女。あれはいったいどうしちゃったのよ。貴女何者よ」
「言ったじゃないか、ハイエルフだと。彼にはハイエルフに伝わりし加護をあげただけだよ」
『ハイエルフって何よ。エルフとか人間なら見たことあるけど、ハイエルフなんて見たことないわよ』
「そりゃそうさ。ハイエルフはもう世界に十人いるかどうかだよ」
長生きで病気などにも罹りにくく、それでいて孤独を好む種族だ。いくら寿命が数千年あろうが、子孫を作るサイクルが無いのであれば緩やかに滅んでいくしかない。一応それでもエルフとは交流が少しはあるのだが、
「エルフの村も、派手に壊しちゃったしなぁ」
『えっ?』




