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ハイエルフ様、生き急ぐ  作者: えだまめのさや
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トリシャの魔力


 ジャウとトリシャにはサーチから教えたが、ファイとヒュージには身体強化の魔法から入る。

 理由としては狼族は鼻も耳も人間の数倍良く、気配察知に魔法は必要ないこと、そしてそもそもの魔力量が少ない彼らは肉弾戦を主とした戦いが多いことがあげられる。

 さらに身体強化の魔法に詠唱は必要ない。

 これは体内に流れる魔力を体の隅々《すみずみ》まで自在に巡らせることで身体能力を強化するのだ。

 ちなみにトリシャはジャウの真似をしてひたすら風魔法で棒を殴っている。また使い過ぎで倒れなければいいけど。


「ファイちゃんもヒュージくんも、魔力を感じたことはあるかな?」

「なんとなくだけど、分かる」

「わかんない!」

「それなら一回私の魔力を感じてみようか。私の手を取って、目を閉じて」


 ファイは八歳、ヒュージは五歳なのでジャウ、トリシャよりも一歳年下だ。エルフ的に見れば誤差の範囲内である。子供の一歳差など、魔法を使い始める年齢としては誤差だ。

 魔法の才能は種族、魔力量、技量で完結する。

 ヤトラのかつていた教え子の中には四○代まで魔法を大して知らなかったものが覚醒したこともあった。日常で使う魔法だけで自分の適性を決めつけてしまうと、本当の実力は分からないものである。


「じゃあ今から魔力を二人に流すから、感じてね」


 流す魔力は少量。

 多すぎると体が抱えられる魔力を超え、使いすぎた時とは別で魔力酔いという現象が起きる。

 主に精霊術士が精霊から魔力を貰いすぎた場合などに起きる現象だ。


「——んっ、くすぐったいかも」

「……?」


 ファイは魔力を感じると言っていただけあって、ちゃんとヤトラの魔力を受け取っていた。

 対してヒュージは幼い顔をしかめっ面にしている。


「……よし。ファイちゃんは今の感触を、今度は自分の中で作ってみるんだ。出来なかったらまたおいで。ヒュージくんはもう少し私と一緒に特訓かな」

「とっくんする!」


 * * *


 それから小一時間ほど、各々の特訓が始まる。

 ファイは瞑想に近い形で体内の魔力を操作を、一方でゴンゴンと棒を風で作りだした刃で打撃するトリシャを見ていると「風よりも地魔法のほうがあっているか……?」との考えがよぎる。

 本当に大丈夫か、とヤトラはトリシャが魔法を使い過ぎないか注意しながら、ヒュージに魔力を感じてもらう事に専念する。

 小さな手を包み込むように握り、先程と同じように魔力を与えてみてはいるのだが、幼いしかめっ面は治らない。

 狼族がこのような顔をすれば普通は怖いはずなのだが、幼いだけあってどちらかと言えば可愛さが勝る。


「ふむ、ちょっとやり方を変えてみようか」

「かえるー?」


 ヤトラはヒュージの両手を掴み、腕と体で輪を作る。

 右手からは魔力をヒュージに多めに流し、左手からは魔力を同量の魔力を吸い出す。

 ヤトラとヒュージの中で魔力を循環させるのだ。

 民間だと腰痛治療などで使われる方法で、体内の淀んだ魔力を押し流して体の活性を促すものである。


「あっ……」

「わかる?」


 大人だと凝り固まった筋肉を力強くほぐされるような痛気持いたきもちよさがあるのだが、ヒュージだとまだそこまで分からないだろう。

 そのまま一分ほど魔力を循環し続け、終える。

 幼い両手を握ったり開いたり、どこか不思議そうに見つめるヒュージ。

 ヤトラが魔力をファイとヒュージに流して感じたことは、やはり狼族である二人は体内の魔力が小さいということ。

 ファイはヤトラの魔力が無抵抗で流れ込んだので、魔法を扱うのは得意そうなこと。

 逆にヒュージは魔力を流すときにかなりの抵抗を感じた。

 これは魔力を扱える能力が低いと評価されがちだが、別のメリットもある。

 それは体内からも魔力が逃げにくいという事だ。

 穴あきだらけの筒に水を通すのと、穴がない筒に水を通すのでは同じ水の量を入れたとしても、最後まで流れ出てくる水の量に違いが出るように、魔力もまた体のあちこちから漏れ出るのが普通。

 少ない魔力を無駄にせず使えると考えれば、狼族であるヒュージにはなんのデメリットにもならず、むしろ身体強化が少ない魔力で長時間掛けられると考えればメリットしかない。


「じゃあファイちゃんと一緒に特訓だね」

「とっくん!する!」


 姉弟仲良く座って瞑想し始めるのを横目に、ヤトラはトリシャを気に掛ける。


「トリシャちゃん、魔法使いすぎじゃないかな」


 五秒に一回は響いてくる打撃音。

 大人でもこれだけの頻度で殴っていれば、いくら低級の魔法と言えど直ぐに魔力が枯渇してしまう勢いだ。

 トリシャだって髪が額にくっつくほどの汗を浮かべ、切れない棒を唸りながらにらめ付けている。


「まだできるもん」

「いやいや、この前だってそういって倒れたじゃないか」

「ウソじゃないもん。この前よりずっといいもん」


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