妖精
夜光草を見つけたのは数日後だった。
キマエラを埋葬してからというもの、ヤトラはジャウとトリシャに魔法を教え始めた。
森で生きていくために必要な魔法であるサーチ。
目的の物を探し当て、何処にどの程度いるのかを教えてくれる。
難点なのが同じサーチを使える魔法使いであれば、自分が今探されている事が簡単にばれる。言い換えれば逆探知されやすい魔法である。
それでも魔物や獣、鉱石や薬草類を探すにはもってこいの魔法だ。
「ヤトラ姉、あっちの方が反応が濃いよ」
「トリシャもおなじ!あっちから声がする!」
前回と同時刻。
二人に手を引かれてヤトラが向かうのは、キマエラを助けた場所のその先。
妖精の鱗粉が舞う中を歩くのはいつ見ても幻想的で、見とれて道に迷いそうになる程だ。
「二人ともあったよ。これが夜光草だ」
ヤトラが指さす先、地面に生える一本の草。
形は種を付けた蒲公英のように丸いが、丸い部分は緑なので葉っぱなのだろう。
二人はラウダお手製のスコップで夜光草を傷つけないように掘り、持ってきた鉢に移し替えす。
ちなみにこの鉢もラウダお手製。
ラウダは木材を渡すと翌日には何かしらの家具などになって返ってくるので、ちょっとした遊戯のようで楽しい。
「もう数本採取したら帰ろうか」
夜光草はどこにでも根付くので、周りを探せばすぐに追加分も見つかる。
三つ持ってきた鉢に五本の夜光草を植え替え、一人ひとつずつ抱えてきた道を戻ろうとした時だ。
「——ヤトラ姉。何かいる」
先頭を歩くジャウが止まる。
つんのめるトリシャの首根っこを捕まえて戻してあげつつ、ヤトラもジャウの目線を追う。
キマエラではなく、面倒なものが現れたと嘆息。
三○メートル先、暗い森の中を光の塊が飛んでいるのだ。
大きさにして一メートルはない。身長だけで言えばトリシャといい勝負だろう。
「ジャウ、トリシャ、よく見ておくんだよ。あれが俗にいう居丈高な妖精だ」
「居丈高って……」
「言葉の通りだよジャウ。私からすれば妖精に良い悪いもない。全員お邪魔虫だよ」
「ちょっと!随分とご挨拶じゃ——きゃっ!」
いつの間にか近付いていた妖精にヤトラは無言で出した氷の刃を投げつける。
胴体直撃コースで投げたのだが、手加減しているだけあって流石に躱すか。それなら躱せないほど大きな氷塊にしようかな。全力でぶつけると血肉が飛び散りそうだし。
「アイルボール」
「な、な……!」
直径二メートルほどの氷のボールが頭上に現れた。
ボールとはいっても表面は凸凹しているし、所々でっぱりもある。
「ヤトラ姉、流石に可哀想な気も」
「甘いぞジャウ。妖精相手は舐められたら面倒なんだ。最初にどちらが上かはっきり示しておいた方がいい」
「やっちゃえー」
トリシャは単純に派手な魔法が見たいだけだろうなぁ。このまま育つと危険思考というか、強い魔法をたくさん使いたい狂人になりそうだから、気を付けておこう。
「それっ」
ちなみに掛け声は優しさである。
「これからぶつけますよ」と言っているのだから、妖精には是非とも避けてほしい。避けたら面白いから。
そんなわけでアイスボールは動き出す。
頭上で浮いていた状態から、バットで弾き打たれたような初速をもってして、一直線で妖精に向っていく。二メートルもあるのだから妖精も全身で避けなければならないだろう。
と思っていたら、なんと避けない。
「舐めないでよ似非エルフが!」
両の手を突き出し、そこから何かを放出して氷塊にぶつけてきた。
七色に輝くそれは、森の中に漂う鱗粉と同じ輝き。
「すごーい!あのようせいさん、お姉ちゃんのまほうにかったよ!」
「む、トリシャちゃん。私の魔法が止められたからと言って、勝ったわけじゃあなんだよ。ほら、氷の塊だったちょっとずつ妖精に近付いているだろう?」
「でもヤトラ姉の魔法がちょっとでも止められるなんて、初めて見たかも」
おいおいジャウよ。あの程度半年後には君も出来る魔法だぞ。そんな程度の魔法で私を……、いや、やはり全力を出し切らなかったのが間違いだったんだな。
うむ、二人の期待には応えねば。
「じゃ、大小二○個追加しようか」




