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ハイエルフ様、生き急ぐ  作者: えだまめのさや
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意識の話

(これはあれか。ジャウは死を身近に意識しすぎているな)


 先程の魔法への反応や今の様子。

 殺されそうになり、飢えという死に怯え、一時的とはいえ父親を目の前で失った恐怖。

 最初は慣れない生活で気も紛れていたのだが、生活が落ちついてきてゆっくりと考える時間があれば、出てくるのだ。

 確実に居た、死という現実が。

 だからこそ無意識に遠ざけようとしている。無関心を貫こうとしている。興味関心や関りがない人であれば、死んでも心は痛まない。

 それは若いエルフに良く見られる症状だ。

 長命のエルフだが、生まれてから一〇〇年は短命の種族とおなじように生き、そして自分だけがいつまでも死なないという本当の意味に気付く。

 他者との関りを極端に恐れ、エルフの村に身を寄せる者や放浪の旅に出る者、果ては命を絶ってしまう者も。


「——ジャウ、こっちへ」

「えっ……」

「いいから」


 戸惑いながらも近付いてきたジャウの手を強引に引くと、トリシャの隣りに座らせる。

 ジャウの手を持ったまま優しくさすれば、弱々しいが先程よりも安定した呼吸を繰り返すキマエラを感じる。


「ジャウが何を感じてどう思うかは自由だけど、心を閉ざすことだけはしないで。それは、子供の君は早すぎる」

「……でも、みんないつか死んじゃうんでしょ」


 そうだね、とヤトラもしゃがみ込みジャウと目線を合わせる。

 二週間前よりもふっくらしてきた横顔は紅潮し、わなわなと唇が震えている。

 子供のだというのになんと悲しいことを考えるのかとも思うが、純粋がゆえに、死というものを重く受け止めすぎるのもある。

 死とは、本来どこにでも身近に居るのだ。

 それを本能が避け、隠し、見えなくしているだけ。

 けれどそれを口で説明したからといって、納得する子供はいないだろう。得てして、子供は変なところで頑固なのだから。


「死ぬのは、悲しい。居なくなるのは、辛い。だから関わりたくない」

「なるほどね。じゃあ、私ならいいのかな?少なくとも、私は君よりは長生きするし、ここが私の家なんだけど」


 見開いた目でこちらを見るジャウ。

 しかし数秒後には口を尖らせて拗ねるように呟く。


「ヤトラ姉は別。それにエルフは他種族に関わらないって聞いた」

「そんなことはないよ。都や町に住んでいるエルフだってたくさんいる。中には貴族になって毎日、きらびやかな生活をしている者だっているんだよ」


 主に昔の私とかね!

 もちろんそんな事を言っても信じてもらえないだろうし、前世が魔王で、生き返ったなんて更に信じられないだろう。


「それにね、キュクロプス族でも人族でもやっぱり根本的なところは変わらないんだ。誰も彼も一生懸命に生きて、次代に命を繋ぐ。脈々と受け継がれ、生かされて、ジャウはここに居るんだ。死ぬということを軽く扱ってほしくはないけれど、極端に重く考えなくてもいいんだよ」

「……ヤトラ姉は言葉が上手いね」


 それでもヤトラの言葉に幾分納得してくれたのか、キマエラを撫でる手つきが柔らかくなる。

 トリシャも利発的な子だとは思っていたが、ジャウも最初に会ったころに比べれば明らかに頭の良さが伺える。

 これが人間に輪廻転生した影響なのかどうかは疑問だが、もしそうだとしたらなかなかあの杖は乱用出来ないなぁ。


 * * *


 森に微かな朝日が差し込む頃。

 子供たちに優しく撫でられながらキマエラは静かに息を引き取った。

 泣きじゃくるトリシャに釣られてジャウも泣く。

 ラウダは埋葬用の穴を掘りに行ったようだが、この場をどうにかするのが親の役目ではないのかとヤトラが恨み節だが、父親も娘の成長に戸惑っているのか。

 だからといって逃げていい訳じゃないけど。


「——魔王に仕えし誇り高きキマエラ。貴方の命を決して忘れません。エルフは古き命と新しき命を繋ぐ使命をまっとうし、貴方を次代へと語り継ぎます」


 胸に手を当て、誰にも聞こえない呟きを発する。

 ハイエルフと名乗れないのを許してほしい。

 魔王に仕えてくれたことを労う機会はいくらでもあったのに、ろくに構ってもやれなかったことを許してほしい。

 そして、貴方の命を救えなかったことを、許してほしい。

 静かに頭を垂れるヤトラを、子供たち二人は神妙な面持ちで見守っていた。


 * * *


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