薬草が金貨に化ける
人族に狼族の表情を読み取るのは難しいのが幸いした。
おなじ狼族であれば唖然とするラッシーの顔に思わず噴き出したことだろう。なんて間抜けな顔をしてるのだと。
数舜で平常心に復帰したラッシーは、しばし考え込むような動きをして、顔をあげる。
「分かりました。私に必要なのはお金よりも身の安全です。御提案、お受けいたします」
「分かりました。もし今後も薬草の売り先に困ったのであればお立ち寄りください。私どもの方で買い取らせていただきます」
* * *
「いや、おかしいだろう」
ラッシーは一人、宿で震えていた。
手元にある金貨は十五枚。これがどれだけの大金かと言われれば、王都で一家四人が半年ほど暮らしていける金額だ。田舎なら下手すれば一年は暮らせてしまう。
たった数束、薬草をたった数束売っただけでこんなにもの大金。
「こりゃあ冒険者もこぞって薬草取りに出るわけだ……」
今日宝石店で得られた利益は、卸値から仕入れ値を差し引いて金貨四枚の儲け。経費を差っ引けば純粋な儲けは金貨二枚程度だ。
ラッシーはあまり経験がないが、大きな街道では盗賊も多く出ており、商品がすべて取られてしまう事も珍しくない。
そのような商人は寄り合って護衛を雇うなどしているが、ラッシーが行き来する街道は極端に人が少ないことが影響し、護衛を雇えるだけの人数が集まらない。
それでも狼族であれば盗賊に後れを取るようなことはないと考え、ニッチな交易をして利益を確保しているのだ。
しかしである。
街道で出会った女性のエルフ、ヤトラは何といっていたか。
『薬草を栽培していてね。ゆくゆくは薬草を売りに出したいと思っているんだ』
いつまでこの薬草特需が続くかは分からない。しかし原因が回復魔法が使えない事に起因しているのならば、たとえ需要が減ったとしてもゼロになることは無い。
そこに商機がありありと見えるのだが、同時に命すら脅かしかねない危うさも今日の取引で身に染みた。
なによりあの街道に、ヤトラに商人が押し寄せるのではないかとも考える。
人が通れば盗賊が出る。
下手したら盗賊の手がヤトラに直接伸びるかもしれない。
それは仕方ない面もあるが、それでも薬草の価値がここまで伸びているとは思いもよらなかった。
「これはちょっと忠告しておかないと寝覚めが悪いな」
薬草を売って余裕が出たので、急いで知らせに行っても良いのだが、それよりもやはり情報が欲しい。
商人としても、混沌とする世の中で生き抜いていくにはまず情報を知らなければならない。
ひとまずいつも通り絹を仕入れて、荷造りをし、数日は情報を集めることにしよう。
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