薬草紛争
時は一週間と少し前に遡る。
一部トラブルにも見舞われた商人のラッシーは、無事ファーシュタイン王国王都に足を踏み入れた。
ファーシュタイン王国は武の国である。
建国以来、王族を守る騎士団と腕に覚えのある冒険者が集い、国を大きくしていった。
さらに数十年に一度くらいの頻度で、類まれなる魔法使いが生まれるのも特徴だろう。
全体の魔法使いの数は少ないけれど、一人の才能によって魔法全体のレベルは都度引き揚げられ、騎士団の一角を担うほどである。
一か月振りとなる王都だが、やはり魔王討伐前とは違う様相を見せていた。
町中に蔓延るピリピリとした異変を肌と鼻で感じながら、まずはいつも通り懇意にしている宝石店へと脚を運ぶ。
「おや、もう君が来るほど日が経ったかね」
出迎えたのは恰幅の良い男性だ。
小さいながらも貴族街に店を構えるここは、質の良い宝石が買えると貴婦人でも人気が高い。
その宝石のいくらかはラッシーが卸していると思うと、ラッシーもなかなかに鼻が高いと勝手に思う。
「だいぶ町の様子がおかしい気がするが、やっぱりこっちでも薬草騒動か?」
「そうだね、困ったものだよ。王族、騎士団、貴族は皆宝石よりも今は薬草だと言って全然でね。まぁ流石にそろそろ薬草にも飽きてくるかと思うんだけど、ここ二週間は商売あがったりだよ」
「そうか。なら今回はあまり買わないか?」
いや、と男は目をぎらつかせる。
「今は鳴りを潜めているが、実は今度大きな催しがある。特にご令嬢方はそれに合わせて必ず来るはずだ。だから今回はいつも以上に仕入れるよ」
「そうか、それなら助かる」
催しが何なのか気になるが、深くは聞かない。
情報を仕入れるのも商売のテクニックではあるが、貴族絡みの情報は同時にリスクを手に入れることでもある。
なら知らない方が身のためだ。
「——おや、ラッシー。薬草を持っているのか?」
「ああ。実はたまたま街道で見つけてな。数も少なかったんだが、売れると思って取ってきた」
「ふうむ。うちは薬草の買取はしていないからいいのだが、気を付けた方がいい」
「……なんだ、薬草を巡って強盗でも起きたのか?」
「強盗なんて可愛い物じゃない。襲撃だよ」
「襲撃だと?」
男は出ていた薬草を手に取り、隠すようにラッシーのカバンに押し込んだ。
「なんでもならず者が徒党を組んで騎士団で保管していた薬草の倉庫を襲ったそうだ」
「騎士団の倉庫を?命知らずだな」
「それもあるが、一番は騎士団に一泡吹かせようという下らないプライドがあるらしい。回復魔法が使えない今なら、騎士団の連中も怪我をしたくないと言って積極的に戦わないらしい」
「おいおい、騎士様がそんな日和見主義でいいのかよ」
「仕方ないさ。ここ数年は勇者殿に活躍の場と名声を盗られ、王都防衛戦でも結局は勇者殿が助けに来るまで防戦一方だったのだ。信頼はがた落ち、腕が経つ者は冒険者に転向。残った者だけでは到底戦えまい」
なんともまぁ、世知辛い世の中だ。
あれだけ男の子の憧れであり、ご令嬢からは黄色い声が飛んでいた花形であったというのにだ。
「とにかく、薬草を売りたいなら気を付けることだ。出来ればどこかの貴族に直接買い取ってもらうのがいいだろう。買いたたかれるかもしれないが、他で売るよりも安全だ」
「貴族様ねぇ。抱え込まれそうで気が乗らないんだがなぁ」
「それでも、だ。命あっての物種だろうに。お前さんが仕入れてくるガジャル連邦産の宝石はなかなかに人気でな。儂とてお前さんを失うのは惜しい」




