落ち着いた?
「——もう、いいかな」
「……」
無言は了承と受け取り、ヤトラはジャウがいる場所をのぞき込む。
そこには呆然と地面に座り込む少女の姿。
明るい月光が作り出す葉の影が、より一層彼女を引き立たせている。
「確認が出来たのなら、戻ろうか」
「……うん」
エリアの鎮静効果は非常に大きい。
大本となった魔法が前線兵士の休息所などで使われただけのことはあり、戦闘や死、未知なる脅威への恐怖を和らげる効果がある。
今回はまさに、ジャウにとって未知なる自分への変化に対して非常に効いたはずだ。
テントに戻るとラウダとトリシャは温かくジャウを迎え入れた。
おそらく二人もテントで何かを話し合ったのだろう。
「——とは言え、女子供三人となると些か不安だね。早急に別の手も考えようか」
「ヤトラお姉ちゃんも、怖いものがあるの?」
いやトリシャちゃん。そこは言葉の綾だよ。ラウダも半目でこちらを見ないでくれたまえ。言いたいことはハッキリ言いたまえ。
「おほんっ。トリシャちゃん。森はエルフにとっても人間にとっても、魔物でも動物でも、誰でも平等の世界なんだ。生きるためなら何でもする。だからこそ私たちは守るための力を付けなければならないし、強くならなきゃいけない」
「そうだな。なんで村の森に入っちゃいけないか、何回も聞かせただろうトリシャ。森は力のない子供を食っちまう。村でも森に入れるのは儂の様な木こりや狩人だけだと。けれど今こうして儂らは森にいるし、これからは森で生きていかなきゃならん。だから力を合わせる必要があるし、他に皆で生きていくための方法を考えないといけないんだ」
流石に親の言う事であれば素直に聞くらしいトリシャ。
そしてラウダが木こりという情報をゲットできたのでヤトラとしては住居の発展に一縷の望みが出てきた。
なんでもかんでも地精霊に作ってもらうのも申し訳ないと思っていたのだ。それに、あれは楽ではあるが楽しいかと言われるとちょっと違う。
「ともあれ今すぐここに盗賊が来るとも思えないから、急ぐ必要があるわけでもない。君達三人も人間になれる時間が必要だ。しばらくはこのままでいよう。いいね、ジャウ君」
「……なんで僕に振るのさ」
「君が一番何をしでかすか分からないからだよ。とはいっても性別が変わった事なんて初めてだろうから、無理もないだろうけど」
うん、私もハイエルフから魔王に変わったときはだいぶ混乱したからね。バルコニーの欄干を握ったら捻りつぶしてしまったり、ちょっと魔法で火を起こそうとしたら一〇メートルを超える火柱を出してしまって部屋が火事寸前までなったりと、今となっては愉快な思い出だ。
「ジャウ君、もし体調の異変があったらすぐに教える事。ラウダもジャウの様子で変わった事があれば私に報告を。トリシャちゃんも、お願いね」
「まかせて!おにいのけんこうはわたしが守る!」
胸に手を当てて堂々と宣言するトリシャ。妹から守ると言われてしまっては立つ瀬がないが、気にしないでおこう。
あと「おにい」呼びはそのままなんだね。まぁジャウも男の子の名前だから、別にいいんだけどさ。
「じゃあそろそろ寝ようか。明日は半日かけて歩くことになるから、しっかり休もう」
ジャウとトリシャを真ん中に、トリシャにはラウダ、ジャウにはヤトラがついて寝る事にした。
ちなみに明かりは例の如くイメージから作り出した太陽だ。光魔法が使えないからこれを毎回作り出しているのだが、いい加減どうにかしたい。
しかし詠唱の様に、唱えて魔法を発動するにはもう少し自分の中で確固たるイメージを築く必要もある。なので今はとにかく簡単に出せるように訓練中といったところ。
その太陽を沈め、テントにはうっすらと突き抜けてくる月明かりだけとなる。
三人とも、今日は肉体的にも精神的にも疲れたのだろう。しばらくしたら、三つの寝息が聞こえてきた。
一人眠れないヤトラは、直ぐ横で眠る少女となったジャウを見つめ、嘆息。
「——面倒な性格してるよね、私って」




