そういう事もある
「——は?」
トリシャの言う「おねえ」が誰だか分からないが、それはつまり女の子を指していると考えられる。
トリシャが指さす先にいるジャウを改めて視る。
今まさに再構成されているジャウの身長は、先ほどよりも頭ひとつ分大きい。ヤトラと比べると胸の高さくらいまでしかないが、身長が伸びるという事もあるのだろうか。
まぁラウダは逆に縮んだので、そういうのもありか。
そして何と言っても特徴的なのが、胸部の膨らみだろう。
明らかに女性の胸である。
「ラウダ、確認だがジャウは——」
「男、だったはずだ……」
その歯切れの悪さはなんだ。親だろうアンタ。
そうこう考えているうちにジャウの転生も終わり、姿が現れた。
トリシャと同じ栗色のセミロング、発育途中であろう胸とラインが出来つつある骨盤。
服もゆったりしたワンピースと、誰がどう見ても少女である。
「な、なんだよ皆、僕の顔に何かついているのか」
「い、いや。ジャウも無事転生出来て、よかったね?」
「何で疑問形なんだよ……。元はと言えばあんたが——」
ジャウの動きが止まる。
おもむろに喉を抑え、視線を下に向けた時だ。
「な、なんだこれ……。それに声もなんか違うし」
そう、ラウダもトリシャも容姿こそ変われど、ほぼ同じ声だったので違和感がなかった。
だがジャウは違う。
明らかに女の子の声なのだ。
そして本来であれば足元が見えたであろう視線の先には、二つの小さな膨らみがあるのだ。
喉に触れた手が胸へと下り、さらに下へ。
「待ちたまえジャウ君!ラウダはトリシャちゃんとテントに。ジャウはちょっと私と一緒に来ようか」
慌てて止めに入ったせいで大きな声になってしまったが、おかげでジャウは動きを止めていた。
ラウダとトリシャをテントに押し込めると、ヤトラはジャウの手を取り森の中へと入る。
「ちょ、なにすんだよ」
「いいからちょっときたまえ」
かろうじてテントが見えるかくらいまで進んだところで、魔法を行使する。
「サーチ」
まずは周囲に危険がないかを確かめる。
ヤトラも目覚めてから凶暴な動物や魔物に出会ったことは無いのだが、念には念を入れる。
「エリア」
次にヤトラとジャウがいる場所を自分の支配下に置く魔法。簡易だが、これをするだけでリラックス効果などが得られる。
そう、これから起こることに対してなるべくジャウには冷静でいてもらわねばならない。
「ハイド」
最後にエリアを隠す魔法。
壁などは特にないのだが、支配下に置いたエリアを周囲から見えなくする効果がある。ただし見えなくするだけなので、普通に攻撃などは通る。
「——さてジャウ君。今この場は外から見えない、安全な場所となった。なので、ゆっくりとまずは自分を確認してほしい」
ちなみに都合よくあった大木の裏にジャウを押し込め、ジャウの視界からヤトラも消える。さすがに見られながら色々と確認することは、いくら子供とはいえ羞恥心もあるだろう。
「なっ——!え、あれ!」
「……」
しばし服が乱雑に擦れる音とジャウの悲鳴に居心地の悪さを感じながら、ヤトラは気を紛らわせるように思案する。
なぜジャウが男から女へと変わったのか。
おそらく手掛かりはトリシャと同じだろう。
トリシャは髪の色が変わっただけであるが、その理由として心当たりがある。
ラウダが言っていた「妻と同じ色」である栗色の髪。
これがすべてなのだ。
おそらくトリシャは母親の栗色の髪に憧れを抱いていたのであろう。そしてこの輪廻転生の魔法だが、己の抱く理想の姿へと転生させる効果があると考えられる。
幼いトリシャであれば、母と同じ髪の色になりたいという単純なあこがれで済んだのだろう。
だがジャウは違う。
トリシャが言っていた「おねえ」という存在。そしてトリシャと同じ栗色の髪。
ラ・ヨウの村にまとめ役の少女がいて、ジャウはきっとその子に憧れていたのだろう。そしてトリシャと同じく、母の髪色にも。
そしてヤトラ自身も、思い切り叩いてしまったた事に後悔する。
痛みは我慢できるものであればいいが、子供であれば誰でも助けを求めてしまうものである。そこに母親と「おねえ」の姿を浮かべたのだろう。
そうして出来たのが、今のジャウというわけだ。




