ヤトラは葉っぱを装備した
前世の最後を思い出すのが辛い。
ヤトラへの人望の無さがすべての原因だが、それにしても四天王全員が寝返ったのは流石に堪えた。
一応それなりに苦楽を共にしてきたし、自ら戦場に赴いたりもした。各部族間から戦力が均衡になるように城仕えとして召したりと政治的な働きも怠らなかったのだが。
「……いや、考えるだけ無駄か。四天王を理解しようなんて、所詮私ごときに出来ることじゃなかったんだろう」
となればそもそも最初の人選が間違っていたということだが、思考を切り替える。
魔王であった時、それこそ最期は勇者の対応に朝から晩まで追われていたし、それ以前は如何に魔人族を繁栄させるかで毎日を忙しくしていた。
悠久の時を生きるハイエルフが毎日をキビキビと過ごすなどという、いくら使ってもすり減りもしない命を態々《わざわざ》すり減らして生きてきたのだ。
たまにはハイエルフらしくゆっくり生きるのもいいだろう。
うん、三度目の人生は「ゆっくり楽しく」で生きようじゃないか。
「そうと決まれば、まずは着るものだな」
ヤトラは裸であった。
すらりと伸びた手足にふくよかな胸。背まである群青よりも暗く、紺よりは明るい黒髪。
街を歩けば誰もが振り返るであろう美貌の持ち主だ。
そして絹のように流れる髪からピョコっと控えめに顔を出す尖がった耳輪と深紫の瞳はハイエルフの証だ。
封印した時はちゃんと服を着せていたはずなのだが、何故か今は一糸まとわぬ姿である。
考えて見れば何百年と封印していたのだ。
衣服などとうの昔に朽ち果てたか、先ほどの魔法で吹き飛んだのだろう。
腕で体を隠しながら辺りを見回すが、人の気配はない。
それなら気にすることもないか。
ヤトラは隠すことをやめ、手近な大木に歩み寄り声を掛けた。
「やぁ先ほどは驚かせて済まないね。済まないついでに君が生い茂らせている大きな葉を幾枚かいただきたいのだが」
『な、なんだ?嬢ちゃん、どうして俺たちと話せるんだ?』
「当然だとも。私は森の頂点に立つハイエルフだよ?そんじょそこいらのエルフと一緒にしてもらっちゃあ困る」
もっともエルフにしろハイエルフにしろ、気軽に大木と話せるものはそういない。ヤトラが簡単に自然と対話できるのは、それだけハイエルフの始祖に近い血縁だからだ。
「できれば陽に当たっていない柔らかい葉がいいのだけども」
『あ、あぁ……。ちょっと待ってろ』
困惑する大木だったが、しばらくしてその巨体がわずかに揺れる。
風ではない。大木が自らの意思で揺れているのだ。
そして舞い落ちてくる沢山もの葉。
ありがとう、とヤトラは大木に礼を言って葉を集め、長く太い雑草を引き抜いては器用に葉と雑草の茎を編み込んでいく。
出来たのは最低限の胸と腰回りを隠せるものだ。とくに下は編み込んだカーテンの様な葉を腰で止めているだけなので非常に緩い。
それでも裸でいるよりはマシであり、もし誰かに遭遇したとしてもとりあえず恥を晒さなくて済みそうだ。
「——よし、次は寝床だな」
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