輪廻転生
良い打撃音がした。
うん、この杖すごい、武器として優秀だわ。
強く叩いてもしなりにくく、衝撃を確実に相手に伝える。
持ち手の渦を巻いている部分なんてこう、ごつごつとして上手いことクリーンヒットしそうだし、先端は突くのにもってこい。
とりあえずラウダで一通り、杖の様々な部分を使って叩いてみる。
その度に「ぐえっ」だとか「あがっ」だとか悲鳴が聞こえるのが鬱陶しい。そんな悲鳴をあげたら次に転生させるトリシャが怯えてしまうではないか。
そして丁度六回目を叩いた時だ。ラウダの体に変化が訪れた。
「おやっ?」
「おとうっ!?」
ラウダの体が粉々に砕けたのだ。
まるでガラス細工にハンマーを振り下ろして破片が飛び散るかのごとく。
柔らかい人体がこんなことになってしまうなんて到底あり得ないのだが、そのあり得ない事が起きている。
破片は空中に舞い上がり、地面に落ちるかと思われた。
しかし実際には破片が落ちることは無く、ただ宙に浮き、ゆっくりと渦を巻く。
「これが、輪廻転生か」
渦を巻いた破片はしばらくすると一か所に集まり始め、等身大の煌びやかな光を放つガラス人形を作り出していく。
割れた壺を修復していくように、けれどその大きさはキュクロプスのラウダの時よりは幾分小さい。
ヤトラよりも少し身長が高いくらいで、二メートルを超えていた依然の体高はどこへやら。
全ての破片がガラス人形に嵌ると、人形から放たれていた光は消え失せ、一人の壮年男性が現れた。
裸ではない。ちゃんと服付きである。
なんと便利な、と思わず感嘆してしまったほどである。
「おめでとうラウダ。君は晴れて、人間に転生したよ」
キュクロプス族の最大の特徴である単眼はなく、ちゃんと目が二つある。
刈上げた茶色い髪に、短い顎髭。身長は少々大柄だが、それはキュクロプスであった時から大柄だったという事なのだろう。
「どうだい、人間に転生してみての感想は」
「そうだな。目が二つある事に慣れないが、他は依然と変わらないな」
「慣れないからと言って片目を瞑って過ごそうなんて考えないで送れよ。人間になったのなら人間として生きていく努力をしてくれたまえ」
左右の目があることで正確に物体の奥行きが認識できる。キュクロプス族はそのあたりを音や皮膚から伝わる振動といった感触で補っていたはずだが、それも不要だろう。
「じゃあ次はトリシャちゃん、いってみようか」
* * *
トリシャの転生は事も無げに終わった。
流石にラウダと同様に叩くのは可哀想だったので、最悪痛めても我慢できる腕や足を順番に叩いていった。
転生後は非常にかわいらしい少女だった。
明るい髪は栗色に近く、ラウダが「妻と同じ色だ」と呟いていたのを聞いて納得。しかしキュクロプスの時はもう少し昏い色だったのだが、それが転生するとどうして変わってしまうのかは分からない。
「では最後にジャウ。君の番だ。ちなみに拒否権はない」
「なんで僕だけ扱いが——いだっ!」
「はい一回目。続いて二回目」
「あぐっ!」
ラウダとトリシャを見ていると、転生後は特に痛みはないそうなので、そこのところは安心。下手に避けられて回数を間違えたり、魔力を杖に込めるのを忘れてしまったりすれば面倒なので、ヤトラは絶対に避けられない箇所に打撃を叩き込んでいく。
うん、決していつまでもうじうじと決められないジャウに苛立っているとか、そんなことは無い。決して、ね。
「はいこれで六回目」
三回目となれば砕け散る様子を見るのも慣れたものだ。
ジャウの欠片は比較的青かった。
月光が欠片を照らし、漆黒の空をほんのり明るくしたような青。
その欠片たちが再び集まっていく先、ジャウの体が再構成され始めている。
「——あれ?」
「どうかしたかい?」
「おにい、なんだか変」
「何が、変なんだい?」
トリシャはまだ言葉に拙いのか、主語と述語だけで喋ってしまう節があるな。そのあたりも一緒に暮らすとなると誰かが教えねばいけない。そういう意味だとジャウも教える側ではないだろう。
「なんだか、《《おねえ》》みたい……」




