始祖レリアの加護
加護の光だ。
普段はハイエルフの立場から加護を授ける側だったのだが、実際に受けるのはかなり久々だ。
加護というのは基本的にその種族よりも上位または同等でなければ授けることは出来ない。もちろん効果がより高いのは上位からの加護だ。
『ハイエルフの始祖レリア。あやつもお主と同様に儂が転生させた者じゃった。混沌とした世界に安寧を齎し、しかし決して驕ることなく気高き魂を持っとった。あやつの加護を授けよう。きっとこれからの其方に必要なはずじゃ』
「始祖レリラの加護、ですか」
気高き魂とか持ち合わせていない気もするが、貰えるものは貰っておこう。
とはいっても見た目に変化なし、魔力も変化なし。どのような加護なのかは今のところ分からない。
『ヤトラよ。今しばらくこの世界のため、力を貸してほしい』
「分かりました。まぁハイエルフなんて者は基本暇ですからね」
『ほっほっほ。本当に、ハイエルフにしては珍しい性格よの。あまり悪させんようにな。驕りは簡単に死を呼ぶからの』
神が手を振ると、ふっと姿見が消える。
テントの中は再び静寂が支配するが、ヤトラの手にはしっかりと杖が握られている。
そして知ってしまった。
あの女神はこの世界にとってイレギュラーである事。
そのイレギュラーな神を崇めるファーシュタイン王国と、女神の加護を受けた勇者。
討たれた魔王。
この事はよくよく考えなければならないと思う。
すでに魔王からハイエルフの身に戻ってしまってはいるが、回り始めた運命の歯車というのは、えてして一度巻きこんだ者を手放さない。
「うーん……もしかして今世のモットー、難しい?」
「何をぶつくさ言っているんだ」
「あぁ、ラウダか。ちょっと考え事を、ね」
ラウダとジャウ、トリシャが戻ってきた。
三人とも、特にジャウとトリシャは酷く怒ったような、悲しそうな顔をしている所を見るに、ラウダは二人に正しく、ヤトラの条件を伝えたのだろう。
「それで?結論は出たかい?言っておくけど、私からの譲歩はないよ」
譲歩してしまえば三人の決心が揺らいでしまう。
それは優しいようでその実、周りに流されて自らの意見を簡単に変えてしまったということ。
それは後で必ず後悔する。自らが自分の進むべき道を決めたのだ、という決心こそが、その後の人生を支えるのだ。
「ヤトラお姉ちゃん。わたし、人間になる」
真っ先に口を開いたのはトリシャだった。
人間の冒険者に母親を殺されたのをまじまじと見ただあろう幼き少女。表情は晴れないが、その瞳には確かな決意が宿っていた。
「儂も人間になろう。子を守るのは父親である儂の役目。——だがジャウよ。お前はお前の好きにしろ。お前も今年で一〇歳だ。自分の事は自分で決めろ。たとえお前がキュクロプス族のままであっても、儂はお前の父であり、お前を守る」
いや、そんなジャウの決心が揺らぎそうな事を土壇場で言わないでよ。
あとジャウがキュクロプスのままだったら私の森にはいれないからね?
「……僕は」
「面倒だから人間にしていい?なんか君、長いこと悩みそうだし」
「えっ!」
そんなに驚かないでほしい。
いやハイエルフもエルフもどちらかと言えば気が長くて考え事が好きな種族なんだけどさ。ほら、私ってうだうだ考えるのは好きじゃないんだよね。
「うん、君は人間になるべきだ。私がそう決めた。そうしよう」
では、とヤトラは杖を握る。
呆気にとられるジャウを無視して、まずはラウダより輪廻転生を行う。
「この杖は先程、神様より授かりし輪廻転生の杖。私が六回叩けば、晴れて人間になれる。うん、それはいいんだけど、どれくらい強く叩いていいのかわからないから、結構しっかり目に叩くね」
「おい待てなんだそのふわっとした——」
「はいまず一回目」
「ぐあ!」




