もうちょっと慎重に
「状況を整理しよう。ラ・ヨウの村は戦時中も人間に攻め入られることは無かった。これは戦線が北にあったからだね。それに戦略的にもラ・ヨウは魔王城から離れていたというのもあるね」
頷くラウダ。、
ジャウとトリシャは疲れたのか、ラウダに寄りかかるようにして眠っている。
「逃げ出した時は追われたのかい?」
「ああ。とはいえ森に逃げ込めば地の利はこちらにあったのでな。なんとか巻いたが、流石に儂も迷いかけたくらいだ」
「それからこっちに来たのは何か考えが?」
「ラ・ヨウから北に進むとハーピーの住まう集落がある。頻繁に交流があったわけでもないが、そこを目指していた」
なるほどね。それでこの街道に出てしまったわけだ。
地理関係がラッシーからの情報ではっきりしたヤトラは、今自分がいる場所を正確に把握していた。
敵国と周辺国の情勢を頭に叩き込むくらいは魔王なら当然だったし、ラウダたちが北を目指していたのだが、いつの間にか北東に進んでいたことも分かった。
「そこまでは分かった。次に、どうしてあの行商を襲おうと?」
「……子供たちが腹を空かしていてな。特にトリシャは妻が切られるところを見てしまったために何も口にできなくてな。行商なら何か食べやすい物を持っているのではと思ったのだ」
「確かにトリシャちゃんは軽すぎると思ったのだが、その年で親を殺されるのを見てしまうとは、可哀想な」
更に父親までもヤトラの魔法によって溶岩に飲まれたとなれば、そのショックは想像に難くない。ちょっと反省。
「とはいえラウダもラウダだ。たまたま護衛がいない行商だったが、もし騎士の一人でもいればいくら頑丈なキュクロプス族とはいえ無事では済まないぞ。お前が死んだら誰が二人を守るんだ」
「……面目ない」
ただでさえ右も左もわからぬ森の中。生き延びるためには大人が必要だ。
親が死んでも子供たちだけで生きていけるなど、自然は甘くはない。
「それで、これからどうする?」
「正直、何も考えられていない。逃げることで、生き延びることで精いっぱいだったのだ。その後の心配なぞ出来る余裕はなかった」
「……そりゃそうだね」
とはいえここは既に魔族の国からはだいぶ遠い。人が治める国と国の中間なのだ。
そして少ないながらも人が行き交うし、なによりラッシーが街道で魔物を見たと言えば王国から騎士団が派遣される恐れもある。
だが、ヤトラとしては彼らを見捨てたくない。
これでも魔王だったのだ。
自らが魔王だったとは明かせないが、自分が勇者に敗れたことにより、彼らの平穏が奪われた。
その結果をまざまざと見せつけられている現状、今世のモットーである「ゆっくり楽しく」などというスローガンが全力で殴られているようなもの。
だから助けたい。
目に目える者達だけが幸せならそれでいいのかと言われそうだが、それは私を裏切った四天王が考える事。今の私は魔王ではない。ハイエルフのヤトラなのだ。
「ラウダ。もし君たちが望むのであれば、私が住む森の中で暮らすことも出来るが、どうする?」
「……本当か?行く当てのない儂らが住み着いて、メリットなぞ何もありゃせんぞ」
「別にメリットなんてどうでもいいよ。私はただ自分の寝覚めが悪くなることが大嫌いなんだ。それにエルフは長命の種族。ほんの数十年嫌いな奴といたからって、腹を立てるほど生き急いではいないさ」
ただし、条件がある。
「とは言っても、キュクロプス族をそのまま住まわせることは出来ない。私はこれから人の国と交易をしようと考えているからね。人間の冒険者に身内を殺されたキュクロプスが一緒にいるとなっちゃあ商売なんて出来やしない」
「……訳が分からんぞ」
「つまり、君たちが私のところに住むのであれば、キュクロプスという種族を捨ててほしい」
「種族を、捨てる?何を言っているんだ」




