逃亡の記憶
ラ・ヨウは記憶にある。
確かにあのあたりはキュクロプスの部族とケンタウロスの部族が多くいるところだ。
とはいえ気になることがある。
魔人族と人間、特に敵対していたファーシュタイン王国は魔人族の国からみて北で接しており、戦線もそこで展開されていた。
国の東は比較的穏やかであったと思う。
「君たちは何故こんな場所に?ラ・ヨウのあたりは戦争に巻き込まれなかっただろう?」
「四日前にいきなり人間がたくさんきて、村の皆をおそったんだ」
「なぜ?」
意味が分からない。
あのあたりに目ぼしい資源などはない。
あると言えばケンタウロスが大声を張り上げて競い合う広大な平原くらいだ。一度見たことがあるが、何もない平原をひたすらケンタウロスの男たちが雄たけびを上げて速さを競うのは魔人国広しと言えど異様だったのを覚えている。
ちなみにあれは求愛行動らしい。
「しらない。僕たちは村はずれに住んでて、その日も行っちゃいけない森で遊んでたんだ。父さんに見つかって怒られながら帰ってきたら、村に人間がたくさんいて、村の皆が一か所に集められて、母さんが人間に……」
「う、うぅ……ぐすっ」
言葉に詰まるジャウに、嗚咽を漏らすトリシャ。
色々と不可解な部分あるが、そこから父親に連れられて森の中を逃げてきたのだろう。
着の身着のまま、食料もなく、ただひたすらに。
ヤトラは銀鎖を解くと、落ちてくるジャウを片手で器用に捕まえて一回転。足から着地したところ確認すると、ヤトラの背後に下がる様に言う。
「フレイムフルージュ」
出てきたのは高さ三メートルはあろうかという巨大な溶岩の花。
たとえキュクロプスであっても、直接触れれば生きてはいられまい。
そう、直接触れていれば。
花から溶岩が流れ落ち、出てきたのは長円形の大きな黒い岩。
解除、とヤトラが呟けば、岩に亀裂が走り、ガラスが割れるかのように崩れ落ちる。
中から現れたのは先ほどラッシーに襲い掛かっていたキュクロプス。少年らの父親だ。
そこには先ほどまで怒り狂っていたような姿はなく、冷静さを取り戻した姿があった。
「灼熱の中なら、すこしは自分の頭の方が冷たいとわかったかね?」
「……頭を冷やせとはよく言うが、より暑い中に放り込まれるのは初めてだ」
それは何より、とヤトラは抱きかかえる少女を下ろす。
「おとう!」
かけよったトリシャが父親に抱えられる
泣き止んだ顔にまた涙が流れるのを目にして苦笑を浮かべるが、確認しなければならない事がある。
「いきなりで済まないが、いくつか質問させてくれたまえ。君の名前と、何故人間はラ・ヨウを襲ったのか、ラ・ヨウで何があったのか」
「キュクロプス族のラウダという。村で何があったか、詳しくは儂にも分からん。ただラ・ヨウに来たのは冒険者の集まりだった。皆装備がバラバラだったからな」
「——冒険者」




