キュクロプス族
暗くなる前に野営地に向かうため、ラッシーは早々にテントを後にした。
見送ったヤトラは今から帰る気にはなれず、かといってテントに戻ることもしない。
陽が沈むまであと一時間程。
向かう先はラッシーが追われてきた道だ。
キュクロプスの足跡を追っていけば、おおよそどのあたりから出てきたかが分かる。
「……やはりか」
そこにはキュクロプスの子供が二人。大木の影に身を潜めてこちらを伺っている。
「出てきたまえ。言葉は分かるだろう?」
「……」
数秒。兄らしき少年が妹を引き連れて街道に現れた。
一つ目の魔人族、キュクロプス族。
大人になると背丈は二メートルを超えるが、子供であれば人の子と大して変わらない。
「……おとうは?」
「安心しろ、殺してはいない」
「ほんと!?おにい、生きてるって!」
ぱっと明るい表情を弾けさせる妹だが、兄がそれを制する。
先程のヤトラが放った魔法を見ていれば当然の反応だろう。
「お前はなにものだ。村でもあんな魔法、見たことがない」
「立場が分かっていないようだね。人にものを質問する時はまず自分から名乗り出ろと習わなかったのかい?」
「お前になのる名前なんてない」
どうやら完全に敵として認識されてしまっている。
なら、すこし痛い目を見てもらおうか。
「——ロック」
「おにい!」
どこからともなく現れた銀鎖がキュクロプスの少年の足に絡みつき、そのまま体を宙へと持ち上げた。
少年にしがみついてた妹は尻もちをつき、悲鳴を上げる。
そのまま逆さまに宙づりとなった少年の顔が、ヤトラの目線と同じ高さになる。
「言葉には気を付けた方がいい。下らないプライドなぞ持ち合わせていたら、本当に守りたい者を守れないぞ、少年」
「……くっ!」
がちゃがちゃと鎖が揺れる。
初等の拘束魔法だが、力自慢のキュクロプスと言えどヤトラが発動した魔法を容易く突破できるわけもなく。
「もうやめて!私たちがなにをしたっていうの!お母も死んじゃったし、お父はもえちゃったし!」
「勘違いないでくれたまえ妹ちゃん。君たちは何もしていない。そう、何もしていないんだ。だからこうなった」
ヤトラとしても少年たちをいじめたい訳ではない。
泣きじゃくる少女をヤトラは優しく拾いあげ、あやす。
軽すぎる、というのが第一印象だ。
いくら勇者に攻め込まれていたとはいえ、魔人族側はある程度の戦線を保っていた。
最期は四天王の裏切りで呆気なく片が付いたが、そうであるならば人間と四天王との間には、戦後の何かしらの協定があったはずだ。
だというのに、少女の話によれば彼らの母は死に、そして今日まで逃亡生活を送っていたのだろう。
一体、彼女らは何から逃げているのか。
少女の背をさすりながら、問う。
「さぁ少年よ。君が今すべきことはなんだ」
「……父さんを、返してください」
「条件がある。まずは君たちの名前を教えてくれたまえ」
「ジャウと、妹のトリシャ」
「ジャウ君だね。出身はどこだい?」
「東、ラ・ヨウの村」




