王国と連邦
最悪だ。
まさか私を倒した勇者がいる国に封印されていただなんて。
いやいや、逆に考えればこの地まで王国の手が及んでいないのは魔人族と戦争していたからと考えれば、ある意味一番安全な土地かもしれない。
とは言え仇敵がいる国で商売するのも釈然としないのだが。
「俺に取っちゃあ薬草くらいなら荷物になるわけでもねえし、取引するのは吝《矢房》かじゃないが、《《だれに、いくら》》にする?」
「ちなみになんだけど、絹一反を薬草で買おうとすると、今はどれくらいの量があれば買える?」
「卸値だと薬草五本一束として、一〇束もあれば絹一反が買えるな。ちなみに以前だったら一〇〇〇束持ってきてもまだ絹の方が高い」
単純に考えて薬草の価値が一〇〇倍になっている。
人がどれだけ回復魔法に頼っていたかが分かる数値だ。
「……じゃあ今回の薬草はひとまず市場価格の五割増しで売ってほしいな。販路は任せるけど、話を聞いてるかぎりだとそれくらいの値上げは許容されそうだ。分け前はこちらが四で君が六。往来の少ないここまで来てもらう手間賃だと思ってくれ。どうかな?」
「それはいいが、売れなくても文句は言うなよ。それと前金はどうする」
「現状自給自足の生活でね。お金は売れたらで良いよ。ラッシーはどれくらいの頻度でここを通るんだい?」
「ここから王都まで歩いて五日だから、次来るとしたら二週間後くらいか」
「そうかい、ならこれを渡しておこう。——ベル」
魔法で小さなハンドベルを作り出して渡すと、呆れた顔で受け取るラッシー。
「そこまでなんでも魔法を使うエルフなんて見たことないな」
「そうかい?森暮らしのエルフなんて皆こんなもんだよ。何せ不便だからね。魔法で何でもかんでも解決しなくちゃやっていられないのさ」
半分正解で半分不正解。
森で暮らすエルフは確かに魔法をよく使う。とはいってもそれは不便だからではない。それは森の管理や秩序維持のためだ。
そもそもエルフですら寿命が数百年あるのだ。ちょっとの不便など彼らにしてみれば「ずっと昔からそうだった」ので、今更変える気もないだろう。
しかしヤトラは違う。
元から変わり者ではあったが、魔王になってからはとにかく時間とタイミングに追われていた。
特に勇者の侵攻が始まってからはタイミングを誤ると甚大な被害となって跳ね返ってくることがあり、とにかく時間には余裕が欲しい性分がまだ抜けきっていない。
「近くまできたら鳴らしておくれ。ここから私の家までは歩いて半日ほどかかるから、そのあたりは気を付けて」
「分かった。早くて二週間、遅くても三週間以内にはまた来る。ちなみに次来るときは薬草を準備できるのか?」
「少しは準備できると思うよ」
「次はガジャル連邦になるんだが、あそこは魔法国家だが触媒となる宝石の採掘鉱山が多くてな。回復魔法が使えない今、王国よりも薬草需要が高い。だから多めに貰えるとそれだけ売りやすくはなる」
「分かった。量はちょっと考えておくよ」
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