埃かぶりの美女
「——うああああああああああ!」
リ・ヤトラは悲鳴と共に、布団を跳ね除け飛び上がった。
途端に視界を一面真っ白に塗りつぶすほどの埃が舞い上がり、慌てて窓と思しきところを魔法で吹き飛ばす。
「ごほっ、げふっ」
轟音を立てて壁ごと吹き飛んだ窓だが、それでも室内には埃が舞い上がり続け、我慢ならずに壊れた窓から外へと転がり出る。
ようやくまともな空気を吸え、一息。
「死ぬかと思った……。いや、死んだのか」
木漏れ日が心地良い。
見回せば直径一メートルはあろうかという大木が幾本もある森だ。
落ち葉などは少なく、地面には背の低い草花が芝生の様に生い茂り、小さな花をつけている。
振り返れば盛大に埃を吐いている小屋。
もくもくと立ち上る埃は燃えているかのようだが、あくまで埃。
そのままにしておくのも気が引けたので、さっと風魔法で埃を集めて凝縮させる。サッカーボール大ほどに集まった埃の感触を楽しみながら、さてどうしたものかと頭を捻る。
「うーん、この姿になっているという事は、やっぱり死んだんだなぁ」
ヤトラはもともとハイエルフであった。
大昔に魔法使いとして名を馳せたヤトラであったが、ある日を境に魔王に転生した。
転生なんて軽々しく言うが、普通は転生なんて出来やしない。
ではなぜハイエルフであったヤトラが魔王に転生出来たのかと言えば、いわゆる「神の思し召し」があったから。
そして魔王に転生してからというもの、魔人族の繁栄のためにあくせく働いてきたのだが、結果はあっけなく勇者に倒されるというなんとも惨めなものだった。仲間と思っていた者達に裏切られて。
しかし自分はこうして生きている。
かつてのハイエルフであった姿で。
「いや、備えあれば憂いなしとはまさにこの事だね」
本来であれば魔王として死んだらそこで終わりだっただろう。
しかしヤトラは一つの保険を残していた。
かつて魔王に転生を果たした時、そこには魂の抜けたハイエルフであった自分の躰が横たわっていた。
まさか転生が「まったく新しい躰を与えられること」だとは露にも思わず、さすがにあの時はどうしたものかと戸惑った。
元自分だけあってぞんざいに扱うのも嫌だったし、燃やしてしまうのも気が引けた。
悩んだ末に、長きにわたりこの森に封印していたのだ。いつか自分の身に何かあった時に、元の躰で復活できるように。
余りにも封印が長すぎて埃のボールができるほどの歳月が経っていたが、無事に復活出来た事には満足だ。
とはいえもし目覚める前の寝ている姿を見れたなら、きっと埃の中で眠りにつく美女がいた事だろう。
なんとも嫌すぎる光景が目に浮かぶ。
「生き返ったのはいいけれど、どうしたものかなぁ」




