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ハイエルフ様、生き急ぐ  作者: えだまめのさや
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商人ラッシー

「うむ。ちとやりすぎた感はあるけど、まぁいいだろう」


 噴火口を魔法で整地しながらヤトラは未だに呆然と転がっている男を見る。

 一見して分からなかったが、男は狼族だった。

 狼族にしては毛が少ないのと、毛並みが灰色だったことで人族に見違えていた。

 いや、狼族ならキュクロプスでも勝てるんじゃなかろうか。

 キュクロプスは大きな体と怪力が特徴ではあるけれど、動きは遅く単調。手慣れた騎士なら難なく倒せる相手だ。

 狼族であれば生まれ持った足の速さでどうにかなりそうな気もする。


「ん?怪我をしているじゃないか」

「あ、ああ。突然森の中から現れたあいつに右足を蹴られてな」

「なるほど、だから戦わなかったのか」

「馬鹿言え。一介の商人が魔物相手に勝てるわけないだろう」


 そんなことはない。勇者一行にいた商人はガーゴイルぐらいなら簡単に返り討ちにしていたぞ。


「にしてもそこそこに酷いな。折れてはいないようだけど、早く止血したほうがいい」


 男をテント下まで担ぎ込むと、止血用の布切れを湯に通す。お湯を沸かしていて正解だったね。

 次に水で傷口を洗い、揉み込んだ薬草を当て、布で止血する。


「……準備が良いな」

「偶然だけどね。——あ、薬草は偶然じゃないんだけども」


 男はラッシーと名乗った。

 彼はよくこの街道を利用するようで、今回はじめてキュクロプスに襲われたという。

 なんでも魔王討伐の影響で、魔物の生息域が変わり、今まで見られなかった地域で魔物の目撃が上がっているのだとか。


「それなら護衛くらい付けたらどうだい?」

「護衛の冒険者は誰も彼も薬草採取で取り合いだよ」

「——は?冒険者が薬草採取?」

「なんだ、知らないのか……。見たところあんまり世情に詳しくなさそうだな」

「森にいるエルフなんてそんなもんだよ」


 そりゃそうか、とラッシーは笑い声をあげ、今の冒険者の様子、各国の様子を教えてくれた。

 一つ、魔王討伐後、女神が光魔法を使えなくしたこと。これにより回復魔法が一切使えなくなり、冒険者が薬草採取に駆り出されている直接的原因になっていること。

 二つ、騎士は冒険者の穴埋めとして町近郊の治安維持や魔物退治を担っていること。

 三つ。町から近場の薬草が取れる場所はすでに根こそぎ採られ、冒険者はより遠い、森の中などに分け入っていること。故に新米の冒険者ではまともに薬草を取ってこれないこと。

 四つ、明かりをともす光魔法も使えなくなったため、代替である火魔法がわれているが、火事が急激に増えたこと。


「——ああ、だからこの前ライトの魔法が使えなかったのか」

「なんだ、それすらも知らないのか?」

「魔王討伐も今知ったくらいだよ私は。だが——」


 ヤトラはリュックに目をむけ、その中に入っている薬草について考える。

 何を思って女神が光魔法を使えなくしたかは知らないが、現在薬草の価値はかなり釣りあがっていると見ていいだろう。そして誰も彼も薬草で一儲け、もしくは栽培しようと試みているに違いない。

 つまり、すでに薬草の栽培に成功しているヤトラは、薬草を大々的に売り出せば簡単に大儲けできるのだ。

 とはいえ気がかりな点もある。

 まずは薬草を狙って襲い掛かる輩が出てくること。

 二つ目は貴族や王国に目を付けられた場合。

 三つ目は供給量の少なさ。

 いずれはヤトラ以外でも薬草の栽培方法を見つける人が出てくるだろうが、それでも消耗品である薬草需要が極端に減ることは無いだろう。


「なるほど、つまり先駆者の利益を立場の向上に使えばいいか」


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