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ハイエルフ様、生き急ぐ  作者: えだまめのさや
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細い街道

「よくもまぁ、こんな森の中に道を敷こうなんて思ったな」


 魔王時代、各拠点同士をつなげる物流を改革しようとする時、とにかく悪路に阻まれたのを懐かしく感じる。

 沼地、瘴気しょうき、雪山に酷暑な砂漠。

 魔人族は人と違い、多種多様な種族の集まりだ。

 それぞれ住む場所も好む環境も異なり、ゆえに拠点間交流はゼロに等しかった。

 それでは国を豊かにしていくうえでダメだと、ヤトラは物流の改革を行ったのだが、とにかく道を敷くのが大変だった。

 その苦労を知っていればこそ、こんな森の中に作られた道の偉大さに感服する。あとは誰か通ってくれればいいだけ。


「……暇だ」


 小さな湯沸かしの火を見つめる。

 誰だったか、焚火は一日中見ていられるなんて言っていたが、そんなことはない。普通に飽きる。

 そこら辺の大木とおしゃべりでもしようかと思ったが、その最中を誰かに見られると面倒だし、あまりこの能力は自拠点以外で使うのは宜しくないと考えた。

 異能はそれだけで政治的、軍事的な価値を生む。

 それが良くわかっているヤトラだからこそ、普段からなるべく普通のエルフの振りをしていなければならない。

 お茶でも飲んで待つとしよう。

 リュックからハーブを取り出すと、まずは良く揉み込む。

 今朝出る前に摘んできたものなので、軽く揉むだけで鼻に抜けるよい香りが漂う。

 次に薬草を手にとった。売り物とは別、肥料をあげた時に育ちすぎてしまったものを摘んだもので、しっかりと乾燥させている。

 まずは薬缶やかんに乾燥した薬草を入れ、湯を入れる。

 少し待ったらハーブを入れて待つこと一〇秒ほど。ハーブを取り出したら完成だ。

 ハーブは入れておいたままでもいいのだけど、二杯目三杯目と飲んだ時に独特のえぐみを感じてしまうので、直ぐに取り出すのが好き。

 一口。


「……うん、いい感じ」


 薬草が入っているおかげで微かに甘みを感じる。

 薬草の使い方は人それぞれなのだが、記憶を辿ればお茶に入れるという方法もあったはずだ。

 しばらくの間、御茶をたのしむひと時。

 時折心地よい風が街道に吹き、穏やかな時間が流れていく。


「うん、実にハイエルフらしい人生の過ごし方な気がしてきた」


 無限にある寿命の中、自然と同化し、ただ過行く時に身を委ねる。

 漫然と無為な人生を謳歌おうかできるのはハイエルフのみの特権だ。

 暇だけど。

 誰一人通らない道。自分だけが無意味に占有してお茶を飲むなんて贅沢な経験はなかなか出来るモノじゃない。

 暇だけど。


「——うん?」


 そのまま眠ってしまおうかと舟を漕いでいた時だ。

 微かに聞こえてくる足音。

 それも慌てた様子で走っている。

 待ちに待った通行人のようだが、まるで何かに追われているような。


「まったく、これだから風情を感じない者達は」


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