山爺と薬草
「薬草は俺のものじゃない。持っていきたければ勝手にすればいい」
ぶっきらぼうに告げる山爺こと岩の精霊。
その反応にどこか懐かしさを覚えるヤトラだが、勝手にもらっていいのであればそうしよう。
「あと、薬草を私のところでも育てたいんだけどいいかな?」
「言っただろ、薬草は俺のものじゃない。誰が何をしようが俺は関係ない」
「そうは言ってもだ。随分とここの薬草は手入れがされているように見えるけど?そもそも薬草を育てること自体、あまり上手くいった話を聞かないんだ。出来れば色々と教えてほしいんだけど」
「……」
ヤトラが召喚した地精霊はモグラだったが、岩の精霊は大きなイモリだった。湿った岩場に人の様に腰かけ、お腹の赤い紋様が無言の圧力を発している。
今回は反省を生かして最初に名乗りでたヤトラであったが、岩の精霊からの返事は芳しくなかった。
先程からこの場の薬草についてあれこれ聞いているのだが「俺の住処の周りに偶然薬草が育っただけ」だとか「なんで増えたのかは知らない」だとか、気のいい返事は聞けていない。
まぁ持って行って良いというのだからいいか。
「まぁいいさ。数株頂いていくよ。代わりと言っては何だが、もし困ったことがあれば手を貸すよ」
「そんなことは起こらない。俺は誰の助けも必要としない」
そうやって突き放す言葉が如何にも「構ってちゃん」だと分からないのかなぁ。
「——さて、ではどれを頂いていこうかな」
まずは薬草を薬草の声に耳を傾ける。
表現しにくいのだが、こういうのは切り替えスイッチの様なものがあるのだ。
常に植物の声を拾ってしまうと料理する時などに非常に困る。人には聞こえない悲鳴があちこちから上がるためだ。
なのでエルフもハイエルフも、意識して植物の声を聞くか聞かないかを幼い時に訓練する。
そして最終的にはマンドラゴラを引き抜いて、悲鳴を上げさせても気絶しなければ合格だ。
今思えば随分とスパルタンな訓練方法であるが、おかげで森に住まうエルフも植物に対して罪悪感を抱かずに済む。
ちなみに町に住むエルフは植物の声を聞くことがだんだんと出来なくなっているというが、原理は良く分からない。
ヤトラは時より引っこ抜くようなそ素振りをしては薬草の反応を確かめる。
大半の反応が
『来るな!』
『あっちの方がうまいぞ』
『お兄ちゃん助けて!』
などとこちらの手を忌避するような叫びである。というか兄弟なの?君たち。
だが、そんな中で少しづつ違う反応も出てきた。