薬草を知る
なるほど、状況は理解した。
結論から言えばこれは売りものにならない。
第一に、彼女らが長く花を咲かせていられるのは妖精の加護によるものだということ。
つまりその加護が無ければ普通の蘭と変わらないだろう。
そしておそらくその加護は短期的なものだ。
理由は簡単。妖精は加護を授けられる種族の中では比較的低位であり、複雑で長期間効果が持続する加護は授けられない。
ラーラも「毎回踊りが終わると」と言っていたように、加護を掛け直しているのだろう。
であれば、彼女たちを今直ぐにどうこうするのは労力に見合わないし、お金にもならない。
面倒ごとに首を突っ込むのは魔王時代に死ぬほどやったので遠慮しよう。
「やはり君たちをどうこうした妖精の怒りを買いそうだね。他に売り物になりそうなものを教えてくれないか?」
「そうねぇ……」
ゆらゆらと赤い蘭が揺れる。
どうやら周りの蘭に話しかけているようだ。
『——ここから少し先、森の暗い方に入っていったところに山爺っていう岩の精霊が住み着いているのだけど、そこには薬草が足の踏み場もないほどに生えているって聞いたわ。それなんてどうかしら?』
「薬草か。それはいいかも」
ジュードから聞いた情報の中に薬草のことは無かった。
回復魔法があるから薬草需要はそう高くないかもしれないが、一定の需要はある。
「ありがとう。早速向かってみるよ」
『どういたしまして。——そうだわ、山爺にあったら例の件、忘れてない?って聞いてくれないかしら。言えば伝わると思うわ』
頷き一つでヤトラはラーラが示してくれた方へと歩き出す。
妖精の次は精霊か、と面倒なことになりそうな気配がするが、これも楽しく生きるため。千里の道も一歩よりだ。
後ろでおしゃべりを始めた蘭を後にし、ヤトラは暗い森へと分け入っていく。
* * *
『ねぇラーラ。なんで嘘ついたの?』
『あら、私は嘘なんてついていないわよ』
白い蘭が赤い蘭がゆらゆらと揺れる。
『僕たちは別に妖精の加護なんか無くてもずっと花を付けられるじゃないか』
『ただ花をつけるだけならね。でも彼女の目的はずっと可憐な花を付けられる蘭だったみたいだし。それにね、私はあの人をただのエルフだとは思っていないの』
『違うの?』
『私も数年に一度しか来ないようなエルフくらいしか知らないけれど、、それでも彼女は違う。なにせ埃まみれの魔女よ。あれはエルフでも人間でもない者よ』
『ふーん。ラーラがそういうなら、そうなんだろうね』
『……貴方も少しは自分で物事を考えなさいよね』
『僕は別にいいよ。難しいことはぜーんぶラーラにお任せ』
白い蘭が面白そうに揺れる。
『はぁ……一体どこで育て方を間違えたのかしら』
* * *