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ハイエルフ様、生き急ぐ  作者: えだまめのさや
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おしゃべりな蘭

「ここか」


朝。

ヤトラはさっそく森の中を探索していた。

相変わらず半裸な状態だが、意外と寒くないのは季節が夏に向かっているからだろうか。

勇者に倒されて生き返るまではおそらくタイムラグが無いと思う。

であればしばらくは寒さで凍死するようなことは無いだろう。


「うーん、確かに蘭は蘭だけども」


しばらく歩いた森の中、他よりも少し広い場が見えた。そこがジュードから聞いた蘭の群生地だ。

相変わらず大木があちこちに鎮座していて、人の立ち入った気配などは微塵も見られないのだが、それにしてはどこか整備されているような気もしないでもないと思う。

そんな中に現れた

広場。

陽の光がふんだんに届くところでもないが、それが蘭の成長に丁度良かったのだろう。

だが、目の前に広がる光景を蘭とはあまり認めたくない。

何気なしに蘭と言えば上品に咲いているのかと来てみれば、見事にジャングルである。

幾重にも絡み合う茎と葉と花。

広場の中、一か所だけに不自然に集まっているのが目に入った。

不規則に競い合うかのように咲く姿をみて、あまり美しいとは思えなかった。


「……まぁ聞いてみるか」


歩みより、その中でも真っ赤な花をつけている蘭に目を付ける。

赤い蘭の花言葉は「幸せが飛んでくる」。

験担げんかつぎではあるが、どれに話しかけていいものかも分からない。

それに花といえば古来より妖精と切っても切れない縁にある。

花に妖精を視る者、妖精の遊び場。

どんなところに、どの様に咲いていても花への対応は丁寧でなければ妖精にまで悪い噂が広まってしまうので注意が必要だ。


「おはよう、深紅のレディ。ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」

『あら、丁寧に話しかけてくる割には名乗らないのは、何か後ろめたいことがあるのかしら?』

「これは失礼。私はヤトラ。この先の森の中に住んでいるエルフだよ」

『——貴女が、埃かぶりの魔女さんね。私はラーラ。見ての通り蘭よ』


まて、何だその名は。


『誰もが生まれた時からある不思議な小屋に、とても美しい人がいるというのは、この森の三大七不思議なのだけど……。確かに美人さんだけど、半裸とはねぇ。まあいいわ、そんなエルフさんが何の用かしら」


三大七不思議とはなんだ。三つなのか七つなのかどっちなんだ。

いや、今はそれよりも重要な事を優先させるべきか。


「実は近々《ちかぢか》、商売をしようかと思っていてね。売れるモノを色々と探しているんだ」

『なるほど?それで私たちに目を付けたわけね』

「もちろんそれもあるけど、無理に引き抜いていく事はしたくないし、君たちからも何かいい素材が無いか聞いてみたくてね」

『……ご丁寧に挨拶してくるほどのお人よしのようだから、教えてあげない事もないわ。それにこの場所に辟易へきえきしている子がいるもの事実だし』


そりゃあそうだろう。

場所ならいくらでもあるというのに、この一角に密集するほどなのだから、よほど好立地なのか他が最悪なのか。

とはいえこの塊を丁寧に紐解いて一輪ずつ売り物にするのも面倒。

それに蘭が生育しているのはここだけのようなので、全部取ってしまったらそれで終わりだ。

一方でジュードの話によれば、ここの蘭は春から秋にかけてずっと咲いているという。

つまり、安定的に生産できる下地さえ整えれば、なかなか良い商品になるのではないか。

そう考えてくると先が見えた気がした。


「ところでラーラ。君たちはどうしてそんなに密集しているんだい?もっと広そうなところもありそうだけど」

『いい質問ね。もちろんすぐ隣りでもいいのよ?でもここは特別なの』

「特別とな?それは聞いてもいいかい?」

『別に隠すほどの事じゃないわ。この広場の私たちがいる正にここはね、春から秋にかけて妖精の舞踏場なの。だから私たちはここだけで花を咲かせるのよ』

「なるほど。それはそれは……」


いや、ちょっとそれはどうなのよ。

確かに妖精の踊りを飾り付ける花々であれば妖精からの加護をもらえたりと美味しい話があるに違いないが、だからと言ってそのためだけにここまで集まるのか。

いやまて。

ラーラはもう一つ気になることを言っていた。


「確かにそれは可憐である君たちにとっては自分をアピール出来る魅力的な場所だね。でも春から秋にかけて来るという妖精のためにずっと花を咲かせるというのはなかなか大変なんじゃないのかい?」

『そうなの。皆がここに集まるようになってからはここだけ養分が極端に少ないし、誰かが誰かの影になって陽も当たらない。そりゃあ直射日光は私たち苦手だけど、かといって全く当たらないってのもお肌に良くないのよ』

「とはいえそれでも君たちはこうして可憐な花を咲かせているね」

『それも妖精の加護のおかげ。毎回踊りが終わると妖精は私たちに加護を授けてくれるの。だから春から秋までずっと綺麗な花を咲かせていられるのよ』

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