贅沢したいわけじゃないけども
ほんと、存在格をあげると物分かりが良くなって助かる。
しかし上げすぎるのもそれはそれで口うるさい同居人が増えるだけだから、そのあたりも色々試したいなぁ。
「贅沢したいわけじゃないけども、不自由な生活はしなくて済む程度にお金は欲しいかな。……というわけでジュード君。この森の特産を教えてほしいんだけども」
『……どれが金になるか分からないから一通り挙げるからそっちで判断してくれ。まずは近くだと蘭だな。枯れないとは言わないが、春から秋にかけて常に咲いている蘭がある』
「ほう、それはすごいね。単独で長期間咲いているのか、それとも群生地で代わる代わる咲いているのか。どっちにしろ観賞用として売れれば安定的な収入になりそうだ」
しばらくの間、ヤトラはジュードから教えられる特産品をメモし始める。
動けない大木たちだが、常に暇だった彼らはやれどこどこで花が咲いただの狸が生まれただのという他愛もない話題が全てのようで、この森で得られるであろう資源をかなり聞き出せた。
「そういえば、ジュジュ君は地下に鉱石が埋まっているとも言っていたね。そこにある青い葉も彼女からもらったよ」
『ああ、あれか。俺も何の鉱石かまでは分からんが、地表近く出てくると十数年草が生えなかったりするな』
「なるほど。下手に掘り出したら土壌汚染も考えなければいけないのか。ならそれは後回しでいいかな」
ともあれ売り物になりそうなもの、食料として確保できそうなものもそれなりにありそうなのは分かった。
明日以降直接確認しに行けばいいだろう。
スクロール魔法は使い方にもよるが、込める魔力量で数年は存在できる。もともと機密文書などが外に漏れだしても一定時間で消えるように作られた魔法だが、その便利さから今ではメモ書き程度でよく使われている魔法だ。
テーブルに広げたこれも、一年は持つように魔力を込めた。メモ書き程度だし、保管はそこまで考えなくていいだろう。
「ふわあ……。明かりもそろそろ消えそうだし、今日は寝るとするか」
見れば天井の太陽は随分と元気を失くしている。魔力切れが近いのだろう。
寝る前に何か食べる気にはなれないので、もらった果実は明日朝食べるとしよう。
テーブルからベッドに居場所を移す。
葉とはいえジュードから頂戴したものだ。手触りは薄い滑らかな皮といった感じで非常に心地良い。
「あぁ……最高のベッドだよ。ジュード君にもこの寝心地を分けてあげたいくらいだ」
『あーはいはい。別に俺は家のままでいいさ』
「つれないなぁ」
ともあれ急速に睡魔が襲ってきたので、さっさと意識を手放して幸せの睡眠の潜るとしよう。
……そういえば、あの果実はなんて食べ物なんだろうか。