8 美味しい物は油と糖
先日、陛下の体重が判明した事で、栄養計画が立てやすくなった。しかも陛下に説明し、「2ヶ月半で95キロまで減量する」という一文を誓約書に追加してもらえる事になったのだ。最初の半月は、ほとんど何も出来なかったからね。
そして本格的に始まった栄養マネジメントだが……
「うーん。どうしようかな」
実際に陛下の食事を見ていて、どうしても気になる事がある。
それは、陛下が揚げ物が大好きすぎる所だ。陛下だけじゃなく、他の人も揚げ物が好きなようだが、陛下の食べる量は多すぎる。
いや、揚げ物は私も好きだけどね。ただ、この国の食文化なのか、圧倒的に揚げ物率が高いのだ。毎食、何品も出てくる。ちなみに陛下が大好きなお菓子もほぼ揚げ物である。毎日が揚げ物パーティーなのだ。
揚げ物が悪いわけではないが、高カロリー、高脂質なので食べ過ぎには注意が必要だ。だから、この国の食文化を尊重しつつ、揚げ物を減らしていかなきゃいけない。今は毎食、揚げ物が何品も出されているので、徐々に減らしていきたい。
ちなみに揚げ物を減らしていく事は料理長には了承済みだ。だからあとは、陛下の了承を得るだけだ。今はちょうど大広間で会議をしている時間との事。終わったのを見計らって、突撃しよう。
私が大広間の扉を開けて、中に入ると、会議は既に終わっていたようだった。数人の侍女が、陛下の近くに食器を置いているのが目に入った。
「カンナ、いたのか。丁度いい。菓子があるから、お前も来い」
陛下に手招きされ、近くに行くと、所狭しとお菓子が置いてあった。テーブルの真ん中には丸いドーナツのような揚げ菓子が置いてある。表面には砂糖がたっぷりとふりかけてあった。
わぁ、美味しそうだ……そしてカロリー高そう。
「カンナ、食べてみろ。美味いぞ」
どうやら会議が終わり休憩時間のようで、陛下も機嫌が良さそうだ。陛下に勧められるまま、1つ手にとって齧った。
なっ、うま! これ美味い! 中にチーズが入っている。ここに来てから、初めてお菓子食べたかも。
私が感動していると、陛下はそのお菓子が大量に乗っているお皿を私の方に近づけた。
「気に入ったなら、もっと食べていいぞ」
「へ? いいんですか? ぁあ、いやいや、もう大丈夫です!」
あ、危ない。どんどん食べてしまう所だった。悪魔的な美味しさだな、これ。危険すぎる。
「とても美味しかったです。ありがとうございます陛下。ところで、実は陛下にお話したい事があるのですが」
「何だ」
「お食事についてですが、体重を落とす為に、そして健康面の意味でも、揚げ物の数を減らしたいと思っております。宜しいですか?」
揚げドーナツを食べていた陛下の手が止まった。
「どの位減らすのだ?」
「えーと、1週間に1品まで減らそうかと」
「それは無理だ」
即答された。揚げ物大好きだもんね。
「揚げ物は油で揚げるので、当然カロリー、脂質がとても高いのです。それを毎食、何品も食べていては、体重は落とせませんし、心血管疾患や糖尿病やがん等の病気のリスクも上がります」
私を見ながら固まってしまった陛下に、私はにっこり笑った。
「なので、まずは毎食につき、1品のみにしてみませんか?」
「……分かった」
1週間に1品から、毎食1品に緩和されたので、陛下はしぶしぶ了承した。
「あ、あともう1個、お願いがあります」
「まだあるのか」
「お食事を食べる時、いつも大皿から各自好きな物を、好きな量、取って食べていますよね? あれだと、カロリーも把握できませんし、おかわりすると、陛下自身がどの位の量を食べたのか分からなくなってしまうので、今後は厨房で陛下の分を盛り付けて、お出ししたいと考えています。宜しいですか?」
「……もうお前に任せる」
少し投げやり感は否めないが、陛下から了承を貰えた。
私はそのまま厨房に向かった。
「料理長! 陛下から了承を貰いました!」
料理長の所まで駆けて行くと、料理長は何やら調理中のようだった。
「料理長、何作ってるんですか?」
「あ? 見ればわかるだろう。海老のフリッターだ」
おぉ! 何とタイムリーだろうか。揚げ物じゃないか。ちょうど、液に、海老をくぐらせている段階だった。
「料理長! 私に揚げさせて下さい!」
「あぁ? 別にいいけどよ」
料理長が横にずれてくれたので、私は鍋の前に立ち腕をまくると、意気揚々と準備を始めた。
揚げ物を作る時は、できるだけ油を摂らないようにする為に、私の中でルールがある。
まずは少ない油で揚げる事。単純に油を吸収する量が少なくなる。
そして必ず、油が十分に適切な温度になってから、海老を入れる事。温度が低い状態で入れると、十分に火が通るまでに時間がかかって、その分余計に油を吸ってしまう。そして、入れる時は油の温度が下がらないように、少しずつ入れる。
海老がいい色になったので取り出して金網に置く。昔はよく市販の揚げ物を買った時は、キッチンペーパー等で油を吸収させてから食べていたものだ。
「料理長、付け合わせにレモンやキャベツはありますか?」
「あぁ」
料理長がレモンとキャベツを持ってきてくれた。
私は揚げ物を食べる時は必ず、脂肪の吸収を抑える食材を一緒に食べる。レモンやキャベツは、割とどんな料理にも合うので便利だ。
今はまだ、毎食につき1品の揚げ物料理だが、徐々に減らして1日1品になったら、昼にお出しするようにしよう。夜だと、食べた物が蓄積されやすい。
そんな事を考えながら、レモンを包丁で切っていたら、うっかり指を切ってしまった。
「いた〜!!」
すごい久しぶりに切ってしまった。地味に痛い。
「何やってんだ! ぼーっとしてるからだろ」
料理長が水で流した後、どこからか軟膏を持ってきてくれた。
「どけ、俺がやる」
私が軟膏を塗っている間に、料理長がテキパキと盛り付け、あっと言う間に完成させた。
「あ、すみません。ありがとうございます」
「ったく、世話のかかる奴だ」
料理長はため息を吐いて、次の料理の準備をしだした。横で料理長をじっと見る。この人は本当に面倒見がいい人だ。
「料理長……お父さんって呼んでもいいですか?」
「呼ぶな」
即答された。冗談だったのに、すごい低い声で否定されてしまった。
「子供はバカ息子1人で十分だ」
「え? 息子さんいるんですか?」
私が聞くと、料理長は途端に顔を歪めた。
「あのバカ息子は、料理人なんか死んでもならんと、全く別の道に進みやがった! 俺の家は代々、料理人だ。あいつも同じ道に進むとばかり思っていたが……しかも、なまじ顔がいいからか、女達にキャーキャー言われて調子に乗ってやがる! あいつは本当に俺の息子なのか!」
料理長の愚痴が止まらない。私は料理長にとっての禁断のワードを言ってしまったようだ。
しかし、料理長に似た息子なら、さぞかしイケメンなのだろう。一度、会ってみたいものだ。そんな事を考えながら、私は料理長の愚痴を延々と聞かされ続けたのだった。
読んでいただき、ありがとうございます!
近々、タイトルを変更する予定です。
m(_ _)m