episode.2 逃走
気づいた頃には僕はすでに10歳になっていた。
それまでの記憶がない…
記憶喪失か、または10歳の体に入ったのか…
周りに親らしき人はいない。そもそも人がいない。
路地裏のようだ。
「おいっ!亜人風情がサボってんじゃねぇ!」
どうやら僕は亜人の奴隷のようだ。
「はいっ!今行きます!」
「ちんたらしてんじゃねぇよ!」
「すいません。」
「謝っている暇があれば早く仕事しろやボケ!」
やたらと言葉遣いが荒い。
第1の目標はここから逃げることにしよう。
「ねぇねぇ君。」
「ん?誰?」
「僕は君と同じ奴隷のミナだよ。」
綺麗な茶色い髪に可愛い猫耳。
「君は?」
それまでの記憶がないので、とりあえず神としての名前を言ってみる。
「ソラ。」
「ソラちゃんだね。」
「いや…僕、男だよ。」
「え、見た目がすごく可愛いから女の子だと思ってたよ…」
「それはありがとう。」
「それでソラちゃん。一緒にここから逃げない?」
「ちゃん付け?まぁいいや。ごめん僕は君と逃げても君を守ることができない。でも明日、ここから逃げる。いつか君を助けに戻ってくるから…」
「そっか…」
初っ端からこうなるとは思ってもいなかった。
不幸にも程があるだろ…
〜翌日〜
昨日から何も食べていない。せめてこの世界での力の使い方がわかればいいんだけど…
「ソラちゃん、頑張ってね!」
「うん!いつか戻ってくるね!」
「おいお前らぁ!何話してるんだよ!早く仕事に取り掛かれ!」
相変わらず言葉遣いが荒い。
記憶上では1日だけだったけど…
「今までありがとう。」
作戦は考えてある。まず昼飯のパン1つを非常食として、小さくしてバレにくいようにポケットに入れる。
この体は全く食事が取れていなくて痩せこけているので体重が軽い。なので、鉄格子は簡単によじ登れるだろう。
本番はそこからだ。人に見つからずに外に出られればそこで終わりだ。
今まで数えてきた中で門番やその他の大人は合計で6人だ。
門の前にあるのは1人だからその1人をどうにかすれば逃げられるだろう。
決行時間。
まずは鉄格子を人にバレずによじ登る…
成功。
次に人にバレずに門まだ行く…
成功。
あとは門番をどうにかして注意を引く。
石を遠くに投げよう。
成功。
あとは逃げるだけ。
「ソラちゃん!」
小声で誰かが呼んできた。
ミナちゃんだ。
「行っちゃうの…?」
「うんここから逃げるんだ。君も一緒に行く?」
「じゃあ私も一緒に逃げるよ」
そしてぼくたちはなんとか逃げ切ることができた。
ぐぅぅ〜。ミナちゃんのお腹が鳴った。
「とりあえずこのパン食べて。」
「ありがとう!」
満面の笑みを浮かべたミナちゃんはとても可愛かった。
「そういえばソラちゃんはなんで奴隷になっちゃったの?」
「それが…あまり記憶がないんだ…」
「あっ。なんか聞いてごめんね。」
「謝らなくていいよ。僕は気にしてなんかいないからね。」
「私はね。お母さんとお父さん、お兄ちゃんがどっか行っちゃったの。机の上には「さよなら」って書いた手紙があったんだ。その時ね、私すごく悲しくなっちゃったの。」
なんで家族だ。そう思えてしまう。
「それでね。お金もないから、仕事になることしなきゃなって思って探したら、あの人達に捕まっちゃって、無理矢理奴隷にされちゃったんだ。」
「可哀想…。僕は君を守ってあげるよ。昨日はあんなこと言っちゃったけど。絶対に君のことを守る!」
そう僕は決意した。