逃げねばばばなのに!
やっぱり彼は犯罪組織の逃亡犯、キマイラだ。
犯罪組織名がキマイラらしいが、彼の名前を知らないのでキマイラでいいはず!
でも、テレビだと決して近づかずに近くの警察署に何て言っていたけれど、こんなに近づき過ぎというか、すでに監禁されてしまった状態な人はどうすればいいのだろうか。
ああ!こんな時に……お祖父ちゃんとお祖母ちゃんがここにいなくて良かった。
いたら絶対に殺されているわ!
でも、二人が帰ってくるのは一週間後。
それまで私は生き延びて、そして、あの男をこの家から追い出してやるのよ。
決意を新たのキマイラを見返すと、彼はキッチンの方へと行っていた。
うわ!ププルがキマイラの足にしがみ付いて甘えている!
あ、餌の時間か!
キマイラは巨大猫を小さな仔猫みたいに難なく抱き上げ、そして、マズルが短いために醜いと評判の(飼い主の私達には可愛いのだけど)ププルを可愛いと言って頬ずりしたのだ。
彼の肩にププルが大きな頭を乗せ上げて、そのププルの頭に彼は頬を乗せているという格好だ。
なんてこと!
彼は極悪の犯罪者なのに、凄く絵になるって私はきゅんとしてしまったのである。
人間は外見じゃ無いわって思っていたのに……私は外見しか見ない人だったのね!
そうね。
あんなにもハンサムで素敵な人って大騒ぎして大好きだったジーゼルには、今の私は傷つけられていても絶対に結婚したいなんて執着も無い。
あのプルプルなお腹を目にした事で、私は彼を見限ってしまったのだ。
私が筋肉お化けだって騒いだジーゼルを悪く言えないわね。
「プルルルルル。」
「よーしよし、ププル。お利口さんだ。じゃあ、下に降りてご飯にしようか?」
え、どうして猫の名前まで知っているの!
私は家族写真置き場に振り返り、そこにププルのぷの字も無い事を確認するとキマイラを再び見返した。
わああ!
ププルが私にはした事もない、甘えるような感じでキマイラの首筋を舐めていた。
キマイラはくすぐったいという風に身をすくめながらもププルを優しく抱きかかえ、私の背筋どころか腰が抜けそうなほどに低くて甘い声の笑い声を立てているではないか!
猫になりたい。
キマイラは猫は絶対に殺しそうにない。
私が彼を見つめている事を知っていたかのようにして、キマイラが流し目という視線だけ動かして私を見つめて来た。
どきりとしたがそれは恐怖では無かった。
祖母や母が男性をホットと評する理由を知っただけだ。