女の子は悲鳴を上げるもの
俺と目が合った彼女は、初めて女の子らしい事をした。
「きゃあああああ!」
そして、うわ、待て!部屋から出ちゃいけないだろ!
彼女は裸足のままリビングの窓を開けて外に飛び出し、俺も裸足のままズボンは履いていてよかったと本気で思いながら手直にあったタオルを掴んで彼女を追いかけた。
「誰か!助け、むぐ。」
俺は彼女を抱き締めるや、タオルで彼女の口を塞いだ。
ついでにバスローブのベルトを外し、それで彼女を後ろ手になるように縛り上げた。
かなりバスローブがはだけてしまったが、一応はベルトで押さえられている。
さあ、戻るぞと彼女を抱き締めたその時、バシュンと塀の向こうで空気が弾ける音がした。
「畜生!見つかったか!」
俺は彼女の頭を下げさせながら自分も身を屈めた。
数秒待っても次の動きは無い。
しかし、塀向こうでは若者の笑い声が起きたことで、自転車か何かのタイヤがバーストした音だったのだと胸をなでおろした。
けれど危ない所だった。
彼女はやっぱり仕込みだったのだ。
ここで叫び声を上げて俺を外に連れ出し、そこで仲間に俺を撃たせる。
いや、近隣に俺という存在を知らしめ、俺をあぶり出して殺そうとしているキマイラの皿に俺の首を乗せるつもりに違いない。
この上司の家はちょっとした基地ぐらいには堅牢に建てられている。
上司も妻も自分達が挙げた犯罪者達のお礼参りに脅え、そこかしこにカメラと感知センサーは仕込まれており、窓ガラスは全て防弾仕様だ。
だが、彼女はそんな家にどうやって入り込んだのだ?
「にゃああ。」
俺達の足元には失敗した狸風味の猫一匹。
「君か?」
猫は俺を見あげて、嬉しそうににゃあと鳴いた。
秘密がいっぱいの家は猫など飼ってはいけないだろう。
彼等は勝手に秘密の通路を作って逃亡するものなのだ。
そして、彼等を捕獲した親切な人に成りすませば、どんなに警戒心の強い人間もその相手を信じてしまうのだ。
ありがとう、君はうちのミーちゃんを助けてくれた恩人だよ、ってね。
俺が信じたばかりに、ミーちゃん共々俺の家は爆破されてしまった。