彼女は誰?
湯あたりで気絶した彼女をリビングルームに運んだのは良いが、彼女の身体は、なんというか、一般人の女の子とはかけ離れている肉体をしていた。
いや、小鹿みたいで可愛いね、と俺は思うが、これは鍛えられた肉体だ。
これから大学生のはずの女の子の肉体ではない。
上司は孫は読書が趣味なインドアの可愛い子だと俺に自慢していなかったか?
スポーツ嫌いで、お菓子が大好きな女の子女の子している女の子だと!
――見て、可愛いでしょう。孫が編んでくれたハンドウォーマーだよ。
上司が爺臭い鼠色した指なしの手袋を俺に自慢して見せてきて、俺が羨ましいと言うなり俺にその手袋を押し付けた事を急に思い出した。
「俺にって、お孫さんが編んでくれたのでしょう?」
上司は俺から目を逸らし、遠い目をしてぽつりと言った。
「俺は現役だと思っていたけど、孫にはお爺ちゃん色だったみたいだよ。」
「好きな色を言ってやればいいじゃないですか!」
「傷ついたらマルファが可哀想でしょう。あの子は繊細で壊れやすい女の子なんだ。」
俺はソファに転がせた女性を見返し、絶対に繊細で壊れやすくないよな、と思った。見ず知らずの男の筋肉をまず称賛する女性らしく、彼女は素晴らしき筋肉で体が締まっているのだ。
だけど、顔は繊細であどけなくて俺好み、というアンバランス。
もしかして彼女は、元上司の所に必ず俺が現れると見越しての、敵の刺客か?
いや、それでも間抜けすぎないか?
考えても仕方が無い。
逃亡犯の新たな情報の一片でも手にいれられればと気を切り替え、俺はソファ前の座卓に腰を下ろしてテレビをつけた。
情報は俺が襲撃される前とは変わっておらず、残念なことに、裁判の証人となるだろう人間が次々に殺されているらしい情報だけは増えていた。
「きゃあ!」
俺は後ろを振り返った。
小鹿がぴょんと起き上がって俺を見返して来たのだが、はだけたバスローブのお陰で彼女の張りのある胸の谷間から鳩尾という素晴らしき光景までも俺にプレゼントしてくれた。
俺はズボンを履いていて良かったと思うべきか。