とりつくろえる、のか?
俺は失敗の二文字が頭の中で点滅していたが無視をした。
風呂場に誰かがいることはわかっていたし、それが俺がここに戻ると分かっていた相手ならばと、威嚇と、女の声ならば楽しんでも良いかと突入したが、俺は浅はかだったと一秒かからず自分に認めた。
どうして元上司の孫娘が風呂場に可愛らしくいるんだ。
あのジジイは負傷した俺に隠れ家として自宅を提供してくれたが、その実、失敗した狸風味の猫の世話を押し付けて夢の国へ旅立ちたかっただけである。
良いよ、俺はこの失敗したブタ猫は大好きだし。
けれど、猫のほかに孫娘まで俺に任せるとは何事だ。
そして俺は、彼女の姿を認めた時に、行動選択の失敗をしてしまったのだ。
さっさと謝って撤退すれば良いものを、堂々と見えるように中に入り、何事も無いように自然に振舞って見せたのである。
彼女は脅えているのは丸わかりだったが、俺の腰が引き締まっていると褒めた不思議な人だ。
いや、上司に大事に育てられすぎて頭がお花畑なのかもしれない。
そんな事を言ったら、俺に襲い掛かられても文句は言えないというのに!
俺は再び歯を喰いしばり、自分を鼻で笑い、その音で彼女が脅えたので鼻歌で誤魔化した。
何をやっているんだ、俺は。
だが、彼女は何とも可愛いのだ。
茶色と金髪の中間くらいの髪色で、とっても艶やかで飴細工のようだ。
そんな美味しそうな彼女の顔の輪郭はつるんとした卵型で、長いまつ毛に飾られて輝く大きな瞳は優しそうな色合いの薄茶色だ。
彼女の可愛らしさに俺はビクンと衝撃を受け、その衝動のままピンクの形の良い唇やほんの少し尖った顎を舐めてみたいと渇望してしまった。
ごめんと正面を向いたまま風呂場から逃げ出す事よりも、ヤッホーと勝手に挙手し始めた俺の股の間のものを隠すために彼女に背を向ける方を選んだ俺はなんとも馬鹿一筋ではないか。
仕方が無い。
もう賽は投げられたのだから、ここは無頼を通そう。
俺はこんなやつで、こんな自然人で、だから、脅えずに俺のものになろうか?
なるわけ無いだろうが、ばか。
それに俺はさ、先日壊滅させた組織から追われているという身の上じゃないか!