これからの俺達
俺の情けない敵前逃亡に対し、恋人は、もとい、婚約者は好意的に受け止めてくれた。
――父のしたことを受け入れて父を許してくれたのね!
俺は対戦車ライフルでスナイプされたくありません、から。
それに、彼女の母親が味方になってくれそうな言葉を与えてくれた事で、俺は後頭部の痛みぐらい何でも許してやろうと考えたのである。
保母様が守って下さるなら、もしかしたら、と。
俺はマルファを抱き寄せると、再びの誓の言葉を口にしようとした。
俺達は汗臭い。
一緒にシャワーを浴びないかい?
誓の言葉で口説いた後にそこまで言えるといいなあと思いながらだが、とりあえず監視カメラのない場所に行ってマルファにもう少し俺の気持ちを行動で表したいのだ。
「なあに、カイル?」
星とハートが満杯になって輝く瞳に見つめられたのは、実は俺は初めてなのではないだろうか。
俺は純粋なマルファの瞳を見つめているうちに、彼女の両親祖父母が彼女から自分達の真実を隠している理由を理解できた。
その理由こそ俺がこんな仕事をしている理由でもあるのだ。
純粋無垢で正義感に溢れた心優しい人の生活を守るために戦う。
マルファのこの瞳に出迎えられたならば、世界に失望して失いそうな気力だって戻ってくるに違いない。
「マルファ。俺はこんな仕事の人間だけどね、いや、だからこそかな。君の世界、君のご両親の世界、そして、君のおじいさんとおばあさんの世界を守れるように生きていきたい。こんな俺ですが、俺とこの先の一生を共にしてくれますか?」
マルファのキラキラの瞳は溢れて来た涙によってさらにキラキラと輝きを増した。
「もちろんだわ!私こそ、あなたの生活を支えたいし、あなたを幸せにしたい!」
俺は彼女を抱き締めて彼女の可愛い鼻に自分の鼻を押し付け、彼女の耳にだけ聞こえる声で彼女の耳に囁いた。
「ありがとう。婚約者様に最初のお願い。君との最初の出会いをやり直したい。一緒にお風呂場に行かないかな?」
「まあ、うふふ。私がお風呂に入ったそこで、あなたは入って来ない選択をするの?」
「いいや。背中を流し合うって素敵な事をし忘れたじゃない?」
マルファはきゃあと叫ぶと顔を真っ赤にし、それでも上目遣いで俺を見返すとはにかんだようにして、いいわ、と答えた。
俺は腕でも股の間の第三の足もガッツポーズを取りかけたが、そういえばここは魔の家だった。
ブツンと大きく音を立ててリビングのモニターの電源が入ったのである。
「ヘイヘイ!おたしのエクササイズに夢中な君に朗報だ!新たな振り付けを今ここでプレゼント。さあ、ダンスの準備はいいかい?」
「きゃあ!JJの新作!」
俺は婚約者にぽいっとソファに転がされた。
そしてマルファは、ああ、マルファはワンピースを脱いでモニターに向かい合ってしまった。
可愛いワンピの下がスポーツブラとボクサーパンツな所にがっかりとするべきか、色気が無くとも彼女の下着姿が見られて嬉しいと喜ぶべきか。
「さあ、ナイスバディを愛するみんな!あたしについてこれなかったら半人前だ!結婚なんてまだまだのお子様認定してやるぜ!」
俺もやれやれとソファから腰を上げた。
俺はモニターの前に仁王立ちをすると、モニターの中のJJに向かって指を差した。
「お前のお遊戯ダンスなんざ、俺が簡単にクリアして見せるさ。」




