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未来を遮ったのは素晴らしき筋肉と不細工猫

 私の投げた座卓は私達に大筒を向けた男にクリーンヒットし、男は衝撃のまま筒を天井に向けて発砲した。


 次に起きたことはアクション映画というよりは、CGたっぷりのアニメ映像みたいだった。


 天井にぶち当たった電気を帯びた砂は玄関に次々と乗り込んで来た五人の男達の頭上に降り注ぎ、彼等は一斉に真っ青にも見える電撃に撃たれての小刻みな痙攣ダンスという有様なのだ。


「うは、笑かす。」


 ぱしゅ。

 ぱしゅ。

 ぱしゅ。

 ぱしゅ。

 ぱしゅ。


「いやー簡単。簡単すぎて祭りの射撃よりもぬるい。」


 抵抗の意思がない白目を剥いていると分かる人間、それも警察の機動隊らしき服を着た人達に銃弾を次々に撃ち込めるヨハネスに私は脅えてしまった。

 童顔で気立てが良さそうに見える笑顔の人だから尚更だ。


「あ、あなたこそ、キマイラ、だった?」


「ま、っさかあ。僕は普通に素晴らしき国家公務員ですよ。福祉関係の。君のお祖母ちゃんの部下でした。特殊部隊グリフォンっての、知らない?」


 私は知らないと首を横に振るしかなく、しかし、数秒しないでヨハネスは裏声を出した。


「うそ、うっそでーす。」


「え?」


 急な変化を見せたヨハネスは、まるで悪い所を見つかった子供のような表情となっていた。


「どうされました?」


「あ、ええと、あのね。俺が、いや僕が福祉関係で警察の人なのは本当で、ええと、グリフォンはカッコいいかなってだけの単なる大法螺です。ほら、俺はこんなホルスターつけているアクション映画マニアでしょう。っで、一応逮捕権のある司法の者ですので、この警察の格好をした不埒者の確保に動きます!」


 ヨハネスは私に敬礼をして見せると、うさぎのようにぴょんという風に玄関へと駆けだしていき、私はそういえばもう一つ大きな音がした寝室はどうなったのかと振り向いた。


「まあ、カイル。」


 パンツ一枚でシェルターに落としてしまったはずなのに、彼は玄関で倒れている男達のような黒づくめの格好となっていた。

 黒の長袖の伸縮性のありそうなシャツに黒のカーゴパンツ。

 そして、ひじにはプロテクターもついていて、ホルスターには勿論銃だってある。

 警察の格好をした不埒者、イコール、あなたはやっぱりキマイラだった?


「寝室の方は……あなたがやったの?」


 カイルは私に向かってフフッと笑顔を作った。

 私の足はカイルの笑顔で骨が抜けたみたいになってしまった。


「怖くなかったかな?」


 私の両の二の腕はカイルの両手によって掴まれ、そのまま彼に私は引き寄せられた。


「大丈夫。君を誰かに渡すなんてことはしない。あんなヨハネスなんて軽い男にはね。」


 彼の胸に私はトンという感じで押し付けられ、それだけで私の心臓はコトンと跳ね上がるほどにときめいたが、駄目だ、彼はキマイラの人なのよ!


「カイル。あなたは私の為にならば何年だって我慢できる?」


「急に何を。君の為なら永遠だって耐えて見せるよ。」


 私は心を鬼にした。

 彼を更生できるのは私しかいない。

 ぐっと、体をかがめた。

 まるで急にお腹が痛くなったかのように。

 これはJJの教え。

 私の両腕は吃驚したのかカイルの手が離れ、それを合図にJJが教えてくれた通りに全身のばねを使ってロケットのようにしてカイルにぶつかった。


「ぎゃあ!」


 カイルはぐらついて……倒れなかった。


 それどころか飛び上がった私にダメージを受けるどころか、柔軟性のあるその筋肉質の素晴らしき体で私を仔猫のようにして受け止めたのである。

 男性にこんな風に受け止められた事が初めての私としては、心臓が元気な仔猫のようにして胸の中でジャンプジャンプしている!

 

 でも、こんなにときめいていても心を殺すのよ、マルファ!


 彼を倒して拘束して、警察に彼を差し出さなければいけないの!


 だって、彼が更生する、それこそが私達が結婚できるための道でしょう!


 そうじゃなくって?


「君は何をするの?」


「もう!どうして倒れないの!倒れてくれないの!私はあなたに更生して欲しいの!私を愛してくれているなら、カイル!警察に自首して!私はあなたの為ならば、ずっと、白髪になっても待っているから!」


 私はカイルに手放され、足に力が入っていなかったために床にすとんと落ちて座り込んだ。


「カイル?」


「俺は君に何て説明したらいいんだろう。」


 彼は私を置いて頭を抱えながら寝室の方へと歩き去ろうとしている!

 私は彼と逃亡生活すると言えば良かったの?


「待ってカイル!」


「にやお?」


 私は立ち上がり彼の背中に縋りつこうとした寸前、ププルという失敗した大猫が私の邪魔をした。

 彼女は弾丸のようにしてカイルの胸に突進し、カイルは反射的にその大動物を抱きしめた。

 そして私にせいで傷心になったらしいカイルは、ゴロゴロと可愛らしく鳴くププルを抱いたまま寝室の方の廊下へと姿を消してしまったのだが、私はあのププルが私に向けて鼻を鳴らしたのは見逃していない。


 不細工猫に負けたのね。


 きっとププルはカイルの逃亡先にだってついて行くんだわ!


 ああ!猫に愛する女の本当の選ぶ道を見せつけられるなんて!


 私だって宿が無くてもカイルと一緒ならば平気なのに!

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