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無駄にゴージャスな変態

 私は脅え切っている筈だ。


 祖父母の家に、それも私が入ってるバスルームに、見ず知らずの男が入って来たのだ!


 うら若き乙女が全裸な所に現れた全裸の男。


 そんなシチェーションでありながら、男は私に性欲的なモノは一切見せないどころか無いみたいで、普通にシャワーを浴び始めた。

 私の身体はみっともないの、かな?


――なんだその割れた腹は!女の子があり得ないよ!


「ほんのちょっと筋があるだけよ!これは引き締まった素敵なお腹だわ!」


「ありがとう。でも、かなり引き締まっていると俺は思う。」


 私の思わずの言葉を自分への称賛と勘違いしたのか、男は機嫌良さそうに鼻歌を歌い始めた。

 シャワーは男の光沢もありそうな日に焼けた肌を打ち付けて、健康そうで若々しいその肌、私から見えるのは背中だが、ラピスラズリ色で竜とライオンの合成のような生き物が描かれていたその背中を、赤オレンジ色になりながら流れていくのだ。


 だって彼は怪我もしている。

 左の二の腕に大き目の切り傷がある。

 そんな腕なのに楽しそうにあたまを泡だらけにして洗って喜んでいるのである。

 血が!血が!腕から出ているじゃ無いの!


 もう完全に異世界だわ!


 それなのに、こんな状況だから私は叫んで人を呼ぶべきなのに、湯船に浸かって体を丸めて男を見守っているだけなのだ。

 ああ、温かいお湯が氷水のようにしか感じない。


「ちぃ、かなり深かったな。まあ、いいや。で、マルファ、俺も浸かるから上がるか横に除けて。」


 え、どうして名前を知っているの?

 もう怖くてドキドキなんてものじゃない。

 自分の十八歳の人生がここで終わった?そんな感じだ。

 私の名前を知っているどころか、気安そうに声を掛けてきた男は立ち上がると振り向いた。


「ひゃあ!」


 こっちみた!

 そうだ、私が彼が一歩バスルームに足を踏み入れた時に叫べなかったのは、目の前の男が見たことも無いくらいに整った顔立ちだったからでもある。


 大柄な全裸な男がバスルームに入って来た。


 それだけで乙女には声を失う程に恐怖だろうに、彫刻みたいな素晴らしい体をして、その体にくっついていた顔がそこらの映画俳優以上だった場合、違う意味でも声を失うものなのだ。


 つまり、私は叫び損ねた。


 焦げ茶色の光沢のある短い髪は濡れて殆ど真っ黒に変わり、だが、夏の風景のような青緑色の宝石のような瞳は水を受けたせいでさらに輝いて見える。

 濡れた髪をオールバックに撫でつけたので、彼の額の形の良さと形の良い鼻梁を尚更に主張している。

 私がようやく叫べたのは、情けない叫び声からわかるように、恐怖を感じながらもこの変態に見惚れてしまっている自分の羞恥そのものだろう。

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