警察を名乗った男
玄関ベルはけたたましくなっている。
ついでにドアはガンガンと煩く叩かれてもいる。
せっかくのカイルとのひと時、犯罪者の彼を匿うぞ、というよりもカイルとキスしたいというそのひと時を台無しにされたと少々怒ってもいた。
だから、ドアを開けた男がうんざりするような服をわざと選んで身に着けた。
パウダーブルー色に白のチェックが入ったツゥードのワンピースであるが、裾や半袖の袖口には薄灰色のリボンでパイピングされているフリンジ使い、という可愛いが挑戦的なものだ。
だって丈が短くて、私の太ももがばっちりと出ているミニ丈なのである。
私が婚約破棄された日に着ていたワンピースでもあり、痩せてから購入した最初で最後のデート服ともいえる。
ええと、ジーゼルはこの服の格好の私に何て言ったんだっけ?
ああ!男に媚を売りたい女だと一目でわかる男をウンザリさせる服、だと言ったのだ。
よし、この服ならば警察をうんざりさせられるだろうし、追い返すことができるはずだ。
私は煩い玄関へ駆け寄ると、ドアを大きく開け放った。
「うるさいです!近所迷惑を続けるなら、あなた、警察の監査とやらに報告いたしますわよ!」
蜂蜜漬けのナッツ男は私の脅し文句の方が効いたのかへなへなとして玄関ドアに寄りかかり、私はそのヘタレ具合に本気で体調を崩したのかと驚いたぐらいだ。
「え、えと、どうしましたの?」
「……こう。」
「はい?」
顔を上げた蜂蜜ナッツは琥珀色の瞳をやっぱり甘い蜂蜜色に輝かせ、きらっきらの笑顔で私を見下ろして来たではないか!
頬だって赤い。
どうしたっていうの?
「あの。」
私は思わず右手を差し出していて、その手はヘイラ―巡査に掴まれた。
「あの。最高だよ。君は。ああ、よかった君は一人で無事なんだね。僕はさあ、君のお婆ちゃんに頼まれてね、ほら、最近逃亡犯で危険でしょう。君の無事を確認して欲しいってね。そして、君が一人ぼっちならば、うん。僕はここで休暇を申請してだね、お婆ちゃんたちが帰って来るまで君を守ってあげたいと思う。どうかな?」
「ええ!」
何を言っているのだこの男は、とヘイラ―巡査を見返せば、彼は私に右目をぱちっと閉じて見せた。
なんてチャーミングな男の人なの!
でも、なんて強引な人!
私の手を掴んだ彼は私がいいよと言ってもいないのに、なんとなんと、私とカイルが十数分前には転がっていて乱雑なリビングに私を引っ張り込んだのである。
そう、引っ張り込んだ。
私はソファにいつのまにやら座らされ、ヘイラ―巡査はそんな私を逃がさないように両手を私の両脇に下ろして身を乗り出すという格好になっているのだ。
つまり、私はヘイラ―巡査という檻に閉じ込められている!
真っ当に職務を遂行しようとする警察に対して、私憤だけでうんざりする服を着て見せて失礼な対応を私がしたから、彼はとっても怒ってしまったのかしら!
「あ、あの。」
「ちょっと汗臭いね。そこは僕にはマイナスかな。あの野獣には美味しいスパイスかもしれないけどさ。でね、どうせ男を待たせるならね、今度はしっかりシャワーを浴びようね。」
「そ、そんなシャワーを浴びる時間の余裕は無かったじゃない。あなたはお祖父ちゃん家が壊れるぐらいにドアを叩いていたじゃ無いの!」
「おや、残念。ここはお祖母ちゃんとお祖父ちゃんの共有名義のお家でしょう。お祖母ちゃん家とも言ってあげないと可哀想だよ、マダムベルヴァイラ様がね。」
「え、ええ?あなたはお祖母ちゃんとお友達なの?」
彼はすくっと立ち上がると、私を安心させるような笑みを私に寄こした。
「そう、オトモダチ。僕はベルヴァイラ推薦の男と考えて欲しいな。」
僕はお祖母ちゃんの推薦って、どういうことだ?




