突然ですが、遅ればせながら、自己紹介をさせてください、ねえ!
俺はマルファの不思議行動の意味をようやく理解した。
彼女は俺こそ犯罪組織のキマイラだと考えていたようだ。
どうして俺が気がつかなかったのか。
情けない事に、俺は彼女と出会ってから、特に出会う場面において、彼女にとってはわいせつな犯罪者であったからだ。
ここで俺は溜息を吐いた。
そんな出会い方をして俺が、彼女に政府のお抱え特殊部隊員だとぶちまけたとして、彼女がすんなり信じてくれるのだろうか?と。
しかし、悩んでいる時間もない。
玄関ドアの向こうでは、連絡員のヨハネス・ヘイラ―が、警察バッジにも見える身分証明書まで翳してまで俺に会いに来ているのだ。
これは事態の急変があったとみるべきであろう。
俺は覚悟を決め、俺が犯罪者だと思っても俺を匿おうとしていたらしいマルファに向かい合った。
けれども俺の目があったそこで、彼女はてへという風に笑って見せた。
――あいつも情報もいいかな。
ほとんど下着姿というか、互いに下着しかつけていない状態で仲睦まじい俺達なのだ。
少々汗臭い俺達は一緒にシャワーを浴びるという、昨夜のリベンジに挑戦しても良いのではいいのではないだろうか?
あんなに互いに準備万端だったはずが、憎たらしきJJのダンスの疲労のせいなのか、キスをしながら気絶するように寝落ちしてしまったという勿体無い昨夜なのだ。
ピンポーン。
どんどんどんどん。
「あけてくださーい。警察でーす!あけてー!」
どんどんどんどん。
ヨハネスめ!
「ああ!このままじゃ近所迷惑で本当に通報されちゃう!そうだ!ねえ、カイル!隠れて!」
「え?」
「そうよ!秘密の部屋に隠れちゃえばいいのよ!」
「え?」
俺の右手首はぎゅっとマルファの可愛い手に掴まれ、あんまり可愛らしくない力でもって俺は彼女に引っ張られ、彼女は俺を台所へと連れ込んだのである。
マルファは床下収納庫を開けると、空っぽの床下収納庫の白いプラスチック部分、つまり籠状態のものをパコっと外して俺に本当の床下収納の姿を見せつけた。
床下収納のその中敷きが消えた今は、はしご付きの地下への道が出来ていたのだ。
さすが、ハーヴェイ様。
「シェルターがあるの。下に降りてすぐに電子錠のドアがあるから開けて入っていて。解錠番号はっと。ええと、ええと、メモするものはっと。」
マルファは近くにあったホワイトボード用のペンを取り上げると、俺の腕に俺が絶対に忘れない俺の識別コード番号を書き込んで来た。
「この番号は?」
「私が編んだハンドウォーマーをお祖父ちゃんから奪った人の職員番号ですって。ふふ。私が婚約破棄されて落ち込んでいるからって、他にも良い男はいるぞって言ってその番号に変えたの。」
「ちょっと、マルファ、俺は君に伝えなければいけないことが。」
「わかっているわ。いいから入って!警察は私が何とかする!」
「ちょっと!」
マルファは俺をぐいぐいと押して、俺は穴倉に落とされた。
俺が女性の力で負けるはずは無いのだが、俺の心が負けてしまっていたから仕方が無い。
どうしよう、あれは鍋敷きに使ってボロボロだよ。
マルファは下着パンツしか履いていない俺を穴に押し込むや、俺が外に出られなくなるプラスチックの蓋をぱこっと嵌めこんで来た。
「わあ!」
俺は首をすくめて慌てて梯子を二・三段降りた。
バタン。
床下収納が閉じられる音。
あたりは真っ暗になったが、すぐにオレンジ色の微かな明りが点いた。
俺は降りきるしかない。
多分、シェルター内はこの秘密要塞のコントロールルームにもなっているはずだ。
「あのじいさん。キューピッドのつもりなの、かな?」
そして地下に降りきってシェルターの電子錠の前に立った俺は、自分の識別番号を押す前に先住者がドアを開いてくれたことにウンザリするしか無かった。
「JJ。」
「いらっしゃい。情けない後輩君。あたしのプログラムを最後までこなせないなんてさ、あんたにはがっかりだよ。」
俺は過去にJJにされた数々のしごきを思い出して泣きそうになった。




