来訪者その二
玄関ベルの音にどきりとした。
私はカイルの腕から飛び起きると、私達の仲を裂くかもしれないその相手へと向かっていた。
玄関へと走りながら、私は自分がカイルに完全に恋していると認めていた。
いや、認めているどころではない。
絶対にこの愛する人を司法の手には渡さない、くらいの決意と反社会的思考に陥ってもいたのだ。
私を可愛いと言って、今の私を称賛してくれるのは彼だけよ。
いいえ、彼が私が可愛くないと言っても、私は彼には恋をしたはずだわ。
だって、カイルは一緒にいて楽しいのだもの!
急いでインターフォンの応答ボタンを押し、来客者の姿を確認した。
「まああ!」
カイルと同じぐらいの年齢のカイルよりも小柄で細い男性だったが、ナッツに蜂蜜を掛けたイメージが彼を一目見て湧いた。
蜂蜜みたいに輝く薄茶色の髪に、蜂蜜みたいにこってりとした琥珀色の瞳、そして、そんな綺麗な瞳が納まっている目はアーモンド形なのである。
しかし、スーツを着込んだその美青年は、今の私には見たくない自分の身分証明バッジをインターフォンカメラにひらひらと翳してもいた。
「おはようございます。ヨハネス・ヘイラ―巡査です。この近辺に逃亡者が潜伏していると連絡を受けましてね、一軒一軒安全確認をさせていただいております。ドアを開けていただけませんか?」
「結構です。警察を名乗る人が一番危険だからと、祖父母に言われておりますの。敷地からすぐに出て行ってください。朝っぱらから失礼でしょう。」
「いや、あの。大丈夫ですから。これ、これ本物のバッチですって。ねえ、ほんのちょっと中に入れていただけるだけで!」
「帰って下さい!警察を呼びますよ!」
「いや、だから俺は警察ですから!」
「警察は二人で行動しているものじゃなくって?本物の警察でも迷惑です!そんなに女の子一人の家に入りたいのですか!」
「えええ!あなた一人?そこに大男が入ったって通報が!」
「寝ぼけたんでしょうよ!では、さようなら。」
私は乱暴にインターフォンを切った。
そして、鼻息荒く自分の成した事に自分でよくやったと自分を褒めたそこで、私は完全に犯罪者を匿うという犯罪者に落ちぶれてしまったのだと頭を壁に打ち付けた。
「ダメだあ。私は人として終わっているわ。」
「いや、堂々として格好がいいよ。」
「ひゃあ!」
カイルが私のすぐ後ろに立っていた。
寝起きでよれよれに見える寝ぐせの髪や、パンツしか履いていないしどけない姿であるが、だからこそ私が生唾を飲んで手でパタパタと仰ぎたくなるくらいなホットさがあった。
「え、ええと、起きていたの?」
「まあね。で、警察が来たのにどうして君は彼を中に入れないの?」
「え、ええと、だって。私はあなたを司法の手に渡したくないわ。だってあなたは逃亡者でしょう?」
あら、カイルの目玉が、あの綺麗な青みがかった緑色の宝石のような瞳が零れ落ちそう。
どうしてそんなに目を丸くして驚いちゃったの?




