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朝チュン

 気が付けば私はカイルの腕の中にいた。

 汗ばんだ互いの裸の身体が気持ち悪いと思わないのはなぜかと思いながら、カイルの腕に頭を乗せ直した。

 ふわんと彼自身の匂いが鼻をくすぐったが、ムスクのような臭いは嫌いじゃない。

 初対面で犯罪者の彼の腕の中で安心できるなんてと、人間ておかしな生き物だ。

 いや、最初から彼は理想の男性像で、中身も優しい人だったのだからこれは予想できる結果だ。


 昨夜は一緒にダンスプログラム大会をしたのだ!


 自堕落な生活をしている筈のカイルが、最初の映像の振り付けを軽々とこなして私を驚かせた。


「こんなものが地獄のダンスとは!笑わせるぜ!」


 そこで、映像はあと四つあると伝えると、全部制覇してやる!と子供のように叫んだ。

 しかし、JJのダンスをこの半年近く続けていた私でも、最終ダンスのプログラムは踊り切れないのだ。

 案の定、カイルは最後のダンスの映像途中で躓いた。


「ああ!俺は駄目な奴なんだ!」


「そ、そんなことは無いわ!あなたは頑張った!」


「いや、俺はこのJJに顔を合わせられないよ!絶対に馬鹿にされる!裸エプロンで踊らされるよ!」


 カイルは酷く落ち込み、私はせっかく更生しかけた彼を何とかしないといけないと焦った。

 ここで落ち込んで沈んじゃったら、きっと彼は二度と更生しようなんて考えなくなるわ!


「よし!もう一回チャレンジよ!踊り切れなくても、あなたが頑張って再チャレンジしたというならば、私はあなたに勝利者のキスをあげるわ。」


 カイルは無言で立ち上がり、着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。

 リモコンは押され、モニターに再びJJが映り込んだ。


「へい!これが最終プログラムだ。貴様の心臓が潰れるか、あたしの心臓が破裂するかの戦いだ。」


「うるせえよ!JJ!貴様にこそ裸エプロンをさせてやる!」


 でも、カイルに言わせれば裸エプロン敗退者は自分であったらしい。

 確かに。

 彼は三分の一という、前回は半分は踊れたのに、それよりも短い時間でギブアップしてしまったのだ。

 彼はリビングの床に転がり、顔を両手で覆ってしくしくと悲しみ始めた。


「か、カイル!あなた頑張った。そう頑張ったわ!私はあなたにキスしたいね!いいえ、これを理由にしてキスしたいぐらいのあなた良い男よ!」


「――どうして君は時々片言になるんだ。」


 幼稚園時代に友達と嵌ったおままごとが、水商売でのし上がっていくストーリー仕立てだったから。

 社会性はお砂場で培われるって本当なのね!


「えと、励ますのがちょっと苦しいからかな?あなた落ち込み過ぎねー。」

 

 カイルはぷっと拭き出すと、ごろっと転がり仰向けになった。

 私を見上げる彼の眼差しはJJにはできなかったことを私の身体に成した。

 私の心臓を大きく飛び上がらせたのだ。


「全く、君は。あのフェーダーの、ああ、なんか気持ちがわかった。彼は君を支配したかったんだな。君が素敵すぎるから自分の傍に置いて、食べ物という愛情を注ぎたかったんだ。君には重すぎる愛で、ハハ、君が重くならなくて良かったよ。」


 かすれ声の低くて素敵な声で素敵な事を私に捧げてくれたカイル。

 私はそんなことを言ってくれるその唇に感謝のキスを捧げていた。

 カイルは私の唇を受けて一瞬びくりと体を震わせたが、それは本当に一瞬だった。

 私はいつの間にか彼の下に組み敷かれ、キスなんて捧げるんじゃなかったと思い知らされるような彼からのキスという名の攻撃を受ける事になったのだ。


 そして、朝だ。


 私達は最初は激しいキスに溺れたが、そのうちに互いを思いやるような優しいキスに変わり、最後は唇が腫れたと笑いながら二人同時に意識を失ったのである。


「キスだけでこんなに幸せな朝を迎えられるものなのね。」


 ところがまだ七時ぐらいの早朝なのに、私の邪魔をするように玄関ベルが鳴ったのである。

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