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君はいったい誰?

 俺はマルファを救出した際に掛けてやれる言葉が見つかったと喜んでいた。


 君を飼い殺しにしようとするフィーダーは追い払ったよ、と。


 ああ、早く言葉をかけてあげたいよ。

 俺は自分が抱いていた女を床に落とすと、出来る限りの威圧感を相手が感じるようにして彼女を見下ろした。


 誘拐されて監禁されているのであれば、マルファを一分一秒でも早く救出したい。

 麻薬組織がマルファを誘拐したとなると、彼女が社会復帰できない程の暴力を受けているという可能性がとっても高いのである。


 左腕が痛くとも、これは戦えない怪我ではない。

 まずは居場所。

 マルファを助けるためには、相手が女であっても手を緩めてはならないだろう。

 拷問だってしてみせよう。

 すると、俺に見下ろされていた名も知らない女は俺を見あげ、俺の心臓が裏っ返しになりそうな攻撃を繰り出した。


 なあに、という風に小首を傾げたのだ。


 無理だ、無理。

 この女への拷問など、俺には絶対にできない!


「どうしよう。君は行方不明らしいマルファの居場所は知っているか?」


「ま、マルファ個人的にあなた何の用ですか!」


 片言の言葉になってしまったマルファのせいで、俺のせっかくの威圧感がどこかに消えた。


「誤魔化さないで。君はマルファじゃないだろう。マルファは君のような女性でないはずだ。」


 うわ!小鹿が床に突っ伏した。


「ひどーい。頑張っても誰も褒めてくれないどころか、ダメ出ししかされないなんて!」


 小鹿は俺の横にあったジーゼルの土産のジャンクフード入りの紙袋を奪うと、それを抱えてリビングへと駆け出して行った。


「ちょ、おい、ちょっと待って!」


 もしやあの袋の中に拳銃や武器などの類が入っていたとか、か?

 あの男は何も知らない運び屋にされた一般人だっただけか?


 慌てて小鹿を追いかけてリビングに戻ると、小鹿は肉食獣に変わってた。

 しくしくと泣きながら、塊肉に齧り付こうとしているのである。


「ちょっと待って!それ二日は持ちそうな量のお肉!」


 敵に狙われて外に買い物に出られない俺には、食料の確保は死活問題である。

 本気で慌てて彼女から肉を取り上げたのだが、今度は彼女は大き目の箱を開けて中から真っ青なクリームの乗ったカップケーキを取り出して齧り付こうとした。

 俺が止めなかったのは俺がそのケーキを食べる気が無かっただけでもあるが、小鹿もその毒々しい青クリームのカップケーキは食べられなかったようである。


 いや、青のクリームで冷静になったのかもしれない。


 彼女はカップケーキを箱に戻すと、座卓に突っ伏して泣き出した。


「結婚式のドレスを綺麗に着たいだけだったのに!憧れの、ぐす、結婚するなら絶対にマーメイドドレスって決めていたから、ぐす、だから、ダイエットも頑張って、ウエストが細くなるように腹筋背筋を鍛えただけなのに!みんなしてクリーチャー扱いしかしない~!!」


 俺はマルファの告白を聞いて、俺も一緒に泣きたくなった。

 本物の孫にした数々の不埒な行い。

 無理矢理な混浴。

 気絶した彼女の身体への視姦。

 猿轡に紐で拘束。

 はは、何をしたって紙に書かせられたらその場でズドン、だな。


 元上司、リック・ハーヴェイ元少佐の局地的戦闘行為的攻撃はかわせると思うが、更なる引退した元上司、ベルヴァイラ・ハーヴェイ元大佐様の戦略的社会的抹殺行為には太刀打ちできないだろう。


 俺の人生終わった、そんな感じだ。


 俺は彼女の横に座るとつっぷして泣いている彼女を覆いかぶさるようにして背中を抱き締め、せめてもの謝罪として自分の思いの丈を告げた。


「ごめん。君があんまり俺好みだからさ、絶対に普通の女の子だと思わなかった。」


 むくっとマルファは顔を上げると、俺をまじまじと見つめて来た。

 頬に涙の雫が残るという、凶悪すぎると叫びたくなる可愛らしさだ。


「ありがとう、キマイラ。」


「キマイラ?」


「えっと、名前を知らないから。その入れ墨はキマイラでしょう。だからキマイラって。うん、大丈夫。心配しないで!あなたは良い人だもの。私があなたを守るから安心して。」


 俺の首は皮一枚で繋がった!

 人間正直が一番のようだ!


 ほっとした俺は、俺の素晴らしき守護天使となったマルファに、彼女の勘違いを教えなければと彼女の可愛い右手をそっと握った。

 握っただけじゃない。

 ただでも転ばない男の俺は、彼女の滑らかで美味しそうな指先にちゅっとキスもしたのだ。


「マルファ、キマイラは犯罪組織の名前だから、カイルって呼んで。」


 マルファは涙の残る顔をほんのり赤く染めるという可愛い顔でにこって笑い、俺はそれだけで彼女に声を奪われてしまった。

 言わなきゃいけないのに!

 俺の背中の刺青、グリフォンです、って。

 俺は君のお祖父さんとお祖母さんが創設した、特殊トラベルコンサルタントチームグリフォンの隊員で、警察軍部が行けない場所に潜り込んで正義を執行するという特殊部隊員なのですって。


「ねえ、カイル。あなたはお祖父ちゃんをよくご存じだけど、お祖父ちゃんは普通の公務員だったわ。もしかしてお祖父ちゃんは麻薬をやっていたの?あるいは悪い人から悪いお金を貰った事がある、とか。」


「へ、へえ?知らなかった。実は全然知らない人だよ。俺はこんなだしね。」


「そっか、そうよね。へへ。」


 ああ、なんて可愛いんだ。

 俺の守護天使で俺への死刑執行ボタンともなる君。

 こんなに可愛い孫娘に秘密らしい彼らの正体をばらしたら、俺はハーヴェイ夫妻に絶対に狩られて殺されること確実だろう。

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