ドイツ東部にて
結局はドイツはソ連のバングラチオン作戦の後、東部戦線の崩壊を
食い止められませんでした
頑張ってみたんだけどね、、、。
いよいよドイツ軍にとって「東部戦線」というのは「ドイツ東部」を示す言葉に
なってしまった。
陸路で撤退する難民もあれば、様々な制服を着た軍人たちも疲れ果てた表情で
ドイツの西部に向かっている。
この様子はかってのナポレオンのモスクワ遠征も思い出されるようなものである。
ここから歩いていけば間もなく小さな港に出る。
そこから海路でいけば、ソ連軍につかまりにくいだろう。
まだこの辺りはソ連軍の艦艇類に好き勝手はさせてはいないらしいから
そのころ、市街に続く主要幹線ではドイツ陸軍の最後の腕の冴えが発揮されて
いた。
2000mという他国では考えられない遠距離射撃がソ連の重戦車を撃破して
いる。
71口径88mm砲とかいうとんでもない主砲をもつⅥ号戦車2型、ドイツ語で
いうところのケーニヒスティーゲルである。
この戦車は視界の効く拠点を選んでは遠距離からソ連軍の前衛部隊の先頭の戦車
や自走砲を叩く。
叩いて今度は敵の襲撃機や砲兵の攻撃がある前に次の防衛線まで下がる。
この連続でなんとかソ連軍の突進を防いでいるのだ。
こんな戦術をとっていると普通なら上空から襲撃機が襲い掛かったり、急降下爆撃
を食らって、、、となるのだがどうやら味方機がまだ奮戦している様子だ。
「中尉殿、そろそろ燃料が、、、乏しくなっていますが、、、」
操縦手からの報告は、いよいよ来るべき時が来たのを告げている。
「次の抵抗拠点まではあとわずかだ。
燃料はもうないから、そこでできるだけ抗戦したのち、徒歩で撤退しよう。
そこからは港も近い。歩いても大丈夫だろう。」
「こんな目に合うんなら、海軍を志願していたら良かったですな」
砲手が皮肉な調子でぼやく。
「そうでもないぞ。同級生で海軍にいった奴に最近あったことはないからな。」
「そんなもんですかね。」
「とりあえずは今の商売に精を出すしかないなあ」
こんなやり取りの翌日、、、
ひときわ大きな爆発音が聞こえる。
この港を守る外郭陣地の部隊が市内に撤退するために、最後の橋を爆破
したからだ。
残余の対戦車砲の弾薬を盛大に撃ちまくった後、尾栓を外し、使用不能にして
半装軌車で逃げた。
それを合図に橋のたもとにいた戦闘工兵が古いレンガ造りの橋を爆破したのだ。
よほどの爆薬をしかけたかで、橋の主要部が崩れ去り、重装備は渡河できなく
なった。
対岸の陣地からまだ射撃が継続できるから、よほど強力な支援がないと簡単に
ソ連軍も渡れないだろう。
このあいだに、おさらばしないといけない。
ロケット技術についての資料の一部を託されているのだ。
ドイツ海軍の少佐はしっかりと黒い鞄を持っていく。
つい先日まで、ある試験場で次世代の兵器になるだろう、誘導弾についての実証
試験を行っていた、その記録の一部である。
それはまだかさばり、不格好な代物であり、手間暇の割には、効率が悪いもの
であったが、自分たちの研究に世間が追いつく(生産技術やそれを使うノウハウ
など)ならば、いつか必ずものになるのだ。
そう彼らが試験していたのは地対空誘導弾で、様々な秘匿名称がついているもの
の一つだった。
艦対空誘導弾の原型となるものだったのだ。
これはドイツのロケット技術と、日本の造船技術を結合した未来の兵器となるべ
きものだ。
ほぼ同じ資料は先にUボートで日本に向かった日本海軍の技術少佐にも引き継が
れている。
うまく着けばよいが。
これは高射砲の効率の悪さを改善する研究の一つであった。
とにかく、敵である航空機の性能が飛躍的に上昇したことにある。
最近の米英、そしてドイツでも新型の信管を搭載した弾薬で、高射砲弾の有効
な範囲に飛行機が接近した時点で発火、撃墜する「近接信管」なるものが
できてきている。
しかしそれとても、まだまだ膨大な数の砲弾を打ち上げる必要のあるものだ。
さらに射高の問題も出てきている。
アジアで猛威を振るっているとかいうアメリカのB29の実用上昇限度は高射砲
にとんでもない実用射高を求めている
が、ざっとした計算では少なくとも128mmクラスの高射砲が必要と出ている。
洋上ならばまだ気にしなくてもよいだろう。
少なくとも4発爆撃機が投下した爆弾で、洋上行動中の主力艦艇が撃沈された例は
記録されていない。
しかし艦艇とて常に洋上にいるわけではない。
最近でも戦艦グナイゼナウがランカスターの投下した大型徹甲弾で大破している
のだ。
まして陸上で128mmのような高射砲がどれだけ運用されているか考えたら
どれほど守るがわが厳しい立場にあるかわかるだろう。
そこで出てきたのが誘導弾である
地上から所定の方向に打ち上げられたら、それは電探で捕らえられた目標に向か
い、自身で追尾して目標を撃破するしものであった。
電探はウルツブルグの改良型を用いればよい。
発射装置は高射砲の砲架を応用している。
必要な推進装置は、ワルター教授の発明による過酸化水素を利用したロケットが
実用化になった
そう、目途はついたのだ。
ただ、無いのは時間である。
もうそれらを形にする時間がなくなった。
そして自分の上司から、この計画に関する資料をもって米英軍に投降せよ。
との密命を帯びて脱出しているところである。
それはソ連のような国に渡すわけにいかない重要なものなのである。
警備している親衛隊には、試験所と製造工場の連絡に赴くという命令書を
見せて突破し、我々はその後のソ連軍の前進、はたまた英空軍の夜間空襲による
交通途絶の影響も歩いて切り抜けようやく、沿岸部にたどり着いたのだ。
とはいえ、どのくらいの艦船が残っているかは知らされておらず、最悪は
小さなボートで沿岸沿いにいくことを覚悟していたが、、、。
大きな艦艇が入港してくるのが遠めにも見えた
ひらべったい艦容は明らかに通常の艦艇ではなく、空母だとわかった。
そう、この港に入港してきたのはグラーフツエッペリンであった。
そしてやや沖にいるのはヒッパー級の巡洋艦のようだ。
それは先ほど自分たちが潜り抜けた地獄のような地域を交互射撃で
叩いていた。
装填時間の都合で射撃間隔をあけるより、交互射撃で間断なく砲撃するの
を選んだようだった。
ほかにも駆逐艦にしては大口径の主砲を装備した艦艇が同様に砲撃して
ソ連軍の侵攻を抑えていてくれているのだ。
あの艦につけばなんとかなるだろう、確証はないまでも一縷の希望が見え
たのだ。
あと少しだ。
プリンツ・オイゲンの活躍は史実でもありました




