プロローグ
小指と小指を結んで約束した覚えがあるのは、幼稚園の頃。
幼かった俺は、母親と約束をした。
約束の内容を事細かには覚えていないが、破られたことは覚えている。
幼稚園の卒園式にも小学校の入学式も、父兄の席には1つの空席があった。
空いていない方には、六十過ぎの祖母が座っていてくれた。
それから「約束」が嫌いになった。
「約束」は破られる物だと、そう思っていた。
※
「泣いたらだめ!」
そう言って藤岡 優希の手を握ったのは、髪の長い女の子
そして、泥だらけになった顔で笑顔を作る
「優希のたいせつな物が無くなったんでしょ?」
優希は泣きながら、こくんと頷いた
手をふるふると震わせている優希と女の子。
真冬の夜。大の大人でも「寒い」と愚痴を零すような夜に、優希と桜井 美月は立っていた。
川の土手で、どろどろになった姿で二人は手を握っている
「絶対見つけてあげるから泣かないで」
空いている手で、優希の頭を撫でてあげる美月。
「だから一緒に探そう?」
美月は笑顔でそう言って、草が覆い茂っている中を進んでいく。
優希もその背中について行き、草の中へと入って行った。
しかし、しばらくすると、心配した美月の母親と、優希の祖母が迎えに着た
母親に手を引かれながら美月は「優希!美月が絶対見つけるから!約束する!」と言う言葉を残して母親に連れられ家へと帰って行った。
それから数日後、コンコンと玄関の扉を叩かれて、優希は玄関へと走っていった。
まだまだ幼い優希。その友達も同様に幼く、玄関の所についているインターホンまで身長が届かない。
そのため、コンコンと叩かれる玄関の音は、優希からすれば友達の音だった。
「はーい」
と、声を出しながら、玄関の扉を開けると立っていたのは数日前に見た、どろどろの姿になっている美月だった。
「ほら!これ見つけたよ!」
身体同様、泥だらけになったちいさな手に握られていたのは、銀色に輝く指輪だった。
それは、優希が母親から貰った指輪で、数日前に失くした「たいせつな物」
「ママの指輪・・・・・・」
優希がそう呟くと美月は笑顔を作り、優希の頭を撫でた
「約束したから、絶対見つけるって!約束は絶対守るよ!」
優希の瞳からはぼろぼろと涙が零れ落ちる。
大切な物を見つけてくれた友達に感謝の涙。
「約束」は守る物だと言ってくれた美月。
この日は指輪と優希の心の中にも、大切な物が戻った日だった。
1曲の音楽をモチーフとして書いてます。