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第1話『出会い』

この話は、当方の製作いたしましたSRCシナリオ『LastSpell』というフリーゲームの小話的なストーリーとなります。


『LastSpell』をプレイしていると尚楽しめますが、プレイされていなくても大丈夫なように執筆しているつもりですが、その辺りはご了承願えたらと思います。


更新頻度は――気が向いたら。



第1幕「出会い」



私は、『管理人』である。

管理人とは、ここグラーベ王国における間者の俗称である。

様々な地を転々としてきた私、シュウ=リンファにとって、初めて「名前の付く」職が与えられたのだ。


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思えば、私は流浪の旅をしてきた両親の下に生まれ、定住の場所はなかった。

食べ物もロクに食べられず、一日中食べずに過ごしたこともあった。

何か食べるものがないか探しに森へ入ったかと思えば、兎を捕えるためのトラバサミに足を挟まれたこともあった。

街のパン屋に忍び込み、上手く盗むことが出来たかと思えば、店の人に見つかりメッタ打ちにされたこともあった。

両親も仕事が定着せず、様々な所へ働きに行っても、三日経てば解雇されるという有様だった。

そんな様子で仕事が出来ないとわかると、色んな所へ物乞いをして食料を貰い、何とか食いつないで来た。

せびれるところがなくなると、次の土地へと移り住んで、同じように働き口が見つからないでいると物乞いをする。

そんな惨めな幼少期を過ごしてきた。

私に転機が訪れたのは、10歳くらいの頃だった。

私はとてもお腹がすいていて、ふっと立ち寄ったパン屋に寄り、店の人の目を盗んでパンを盗んだ。

さっと店の外へと駆け出し、急いで狭い路地へと入っていった。

店の人が追いかけてこない所を私は「上手くいった」と安堵した。

その時である。

不意に私は後ろから何か衝撃を受け、前に倒れてしまった。

その刹那、私の背中に何かがのしかかり、同時に両腕を背中に回されて、挙句髪を後ろに引っ張られた。

髪を引っ張られているせいで、私の上半身は弓なりになり、息も出来ないほど苦しい態勢を強いられた。

「おいコラこのうす汚ねぇメスガキよぉ、うちの店の大事な商品をくすねるたぁ、良い度胸してんじゃねぇかよ!?」

圧し掛かられたモノから、野太く、そして怒気を含んだ声が発せられた。

店の人に捕まった。私はこれから打たれてしまうのだろう。

「ゆ、許してください……」

勿論、許してくれるとは思っていない。しかし、憐憫を含めて言うならば、動かない心も動く、時もあった。

しかし、たかがパン一つ盗んだだけだ。殺されたりすることはない。

良くて一発殴られるだけ、悪くて腕を一本と指三本折られるくらいの事だろう。

ところが、私の上に圧し掛かっていた野太い声の主は、イヒッイヒッと不気味な笑い声を漏らし始めた。

「おれぁちっせぇ娘が好きでなぁ。イヒッヒッヒッ」

そう言い放ち舌なめずりをしたかと思うと、私の耳元に顔を近づけて。

「ヤラせろや、そうすりゃ見逃してやんよ」

やら……せる……?

そういうと、店の人は道端に落ちていたロープを手に取り、背中に回されていた私の手首はロープできつく縛られた。

「あっ……、痛い……っ!」

荷物を梱包する為のロープなのだろうか、繊維がささくれていてチクチクする。解こうともがくだけで擦れて痛い。

そのロープは力いっぱい手首を締め付けており、手の先が少しずつ痺れて来ている。

それだけではない。無理やり腕を背中にねじ上げられたせいで肩が脱臼しそうになり、そこからの苦痛も生まれてきている。

店の人はあろうことか、余ったロープを首に巻き付けた。

首のロープはきつくは巻かれていないが、手を下ろすと自動的に首が閉まるようになっていた。

「腕を下に動かすなよ。動かしたら首が締まっておっちぬぜ」

何という鬼畜……! 私は、ロープ一つで身動きが取れない状況にされてしまった。

私の服は、首からスポッと被るタイプのワンピースだったが、ほとんど洗濯も出来ずにいたため、所々泥が付いたままになってしまっている。

店の人は、薄汚れたワンピースのスカート部分を掴み、まくり上げた。

私の小さなお尻とパンツが、露になってしまう。

「ひ―――っ」

首にロープが掛かっているのも相まって、悲鳴にならない声を出していた。

こういう時は大きな声が出るものだと思っていたが、恐怖と羞恥が入り混じっているせいか、上手く声を出すことが出来ない。

「ぁぅ……ぁ……ぅ……」

恐ろしさが最高潮に達しているのだろう、喉がカラカラに乾き、口も上手く動かすことがままならない。

私は、為されるがままなのだろうか――。

店の人の手が、私のパンツを掴んだ。

――犯される!!


そう思った刹那。


「おねーさま、なんかへんなことしてるひとがいるよ!?」


甲高い少女の声だった。

路地裏ではあまり聞くことのない「おねーさま」という単語に、ふと私は声のする方に目をやった。

太陽が差し込んで来る。そのせいで、少女らしき存在を見つめる事は出来ない。

しかし、私にはその影が、何とも頼もしく、有難く感じたのだ。

「こらクムー、勝手に変な所に入らないの」

少し駆け足で、もう一人路地裏に入ってきた。

どうやら、「おねーさま」らしき存在らしい。

先ほどの少女より背は高く、長い髪をなびかせていた。

少女たちの気配に気づいた店の人は、訝しい目で彼女たちを睨みつけた。

少しの間見つめたかと思ったら、店の人は飛ぶようにして私から離れた。

「ちゃ、チャティ様! お、俺は変な事してないです!! み、未遂ですからっ!!」

チャティと言われた髪の長い少女は、店の人の目を真っすぐ見て、まるで汚らわしいモノを見るような目でこう言い放った。

「未遂ねぇ……。貴方、小さな女の子を襲うなんて、最低最悪な所業よ」

そういった後舌打ちをして、右の手のひらをを広げて店の人に向けた。

その右手の前に何やら煙のようなものが立ち込めた。

ほんの少しの間でその煙が塊となり、その塊の中から淡い光がこぼれた。

「マーブル家当主ルイ=マーブルが娘、チャティ=マーブルの名において命じます。

少女を犯そうとした罪、誠に重大であると言わねばなりません。少女を解放し、即刻この場から立ち去りなさい。

さもなければ、貴方に裁きの光を放つことになりましょう」

そう言った刹那、店の人は「許してくださぁぁぁい!!」と悲鳴を上げながら、路地裏の奥の方へと逃げて行ってしまった。



「大丈夫?」

髪の長い少女――チャティ様は、私に声をかけて下さった。

遅れて、もう一人の少女が私に駆け寄ってきた。

その姿を見て、助かったと思うと同時に、急激な安堵感が私を包み込んだ。

そう思った途端、意識が遠のいて――。



気が付いたら、ふかふかしたモノに包まれていた。

今まで路地裏にいたと思っていたのだが、そこはおとぎ話で出てくるような宮殿の寝室のような所だった。

周りを見渡しても、高そうなモノばかり置いてあったり、装飾も煌びやかなモノで飾られていた。

一体、どうしてこんな場違いな所にいるんだろう……。

そう思っていたら、大きなドアが開き、路地裏で私を助けてくれた少女たちが姿を見せた。

「あ……あの……」

「そのままでいいわよ」

チャティ様は私が体を起こそうとするのを止めた。

「私が変な男を見つけなかったら、貴女はやられてたのよ! 少しは私に感謝なさい!」

尊大な態度と口調が、その部屋にこだました。

「こらクムー、そんな風に言わないの」

「えー、だって本当の事じゃない!」

クムーと呼ばれた少女は、口を尖がらせて不服そうに喋った。

「ごめんなさいね。私の妹、クムーは少し失礼な物言いをしちゃうの。悪気はないんだけどね」

「お姉さま!」

「はいはい」

軽妙なやり取りが、私の前で繰り広げられていた。

両親は忙しく、私の前ではとても疲れた表情をしていた。

とてもこの姉妹のような明るい雰囲気を醸し出すなんて、全くなかった。

その光景を見て、私もそんな輪に加わりたい――。

羨望の眼差しで、二人を見ていた。

「あら、お姉さまあの子見つめてるわよ?」

「そうね、ちょっとおふざけが過ぎちゃったわね」

チャティ様はそう言うと、少し表情を引き締めて、私の顔を見つめ直した。

「貴女、名前は?」

「リンファ……。シュウ=リンファ、です」

「シュウ=リンファ……。黒い髪に切れ長の目、そして家名を頭に付ける――。貴女もしかして、シン族かしら?」

「はい……」

シン族は、固有の領土を持たない流浪の民族だった。

私の家族も流浪の旅を続けていた。

「そう……。その表情と汚れた服から、生活の大変さがにじみ出てる。辛かったわね」

そんな、私の為に勿体ないお言葉を……。

そう言おうとしたのに、頭と心から、熱いものが込み上げてきた。

涙と嗚咽が止まらなかった。

「大丈夫、もう大丈夫だから……」

チャティ様は、泣きじゃくる私の背中を撫でて下さった。

しばらく泣いていただろうか。私が泣き終わると、チャティ様はもう一度表情を固くして、こう言われた。

「シュウ=リンファ。これも何かの縁です。貴女には『管理人』として、そしてマーブル王国の一員として、働いて貰いたいのです。

貴女が宜しければ、どうか私たちと共に歩んで下さいませんか?」



『管理人』――。

それが何を意味するのか、その時の私には判らなかった。

でも、それがチャティ様に認められたような気がして。

そして、ここに居ても良いと思えるような心地で。

私は、有無を言わさず承諾したのだ。


「……はい、チャティ様――っ!!」


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