ナーロッパでいこう! ~中世欧州風ではなくゲーム的近世風のすすめ。すぐに使える通貨風習文明技術のお話
2021/10/11 盗賊ギルドの語源追加。
2021/11/04 腕時計、懐中時計の歴史追加。
2021/11/23 銃、大砲の歴史。
あなたの中世欧州風世界は中世風なのでしょうか? 実は近世といったほうが楽じゃない? というお話です。
間違いを訂正しろ、というお話ではありません。
【作者様が表現したいのはそんな些細な時代のズレではない】というお話をしたいと思います。
なろう特有の異世界「ナーロッパ」だしって片付けるのは簡単です。時代形成の仕方が違うし、とか、宗教が~と言われるかも知れません。
ですがせっかくの異世界創造。作者、読者含めて知るきっかけになるって素晴らしいと思うんですよね。
知っていて、あえて書かない精神でしょうか。もしあなたの興味になったり調べるきっかけになる話があれば幸いです。
近世という区分が学術的に存在せず中世前期、中期、後期から近代(産業革命)という話もありますが、実際に近世を扱った本が売っているので近世――15世紀のルネサンス最盛期から18世紀あたりを扱います。
個人的にファンタジー異世界はゲーム世界であり、中世欧州ではない、と思っています。近世に近いんじゃないかな、って。
中世欧州はあまりにも宗教の影響力が凄いからです。実際古代ローマ時代とか混じっている面もありますよね。
近世って中世より語呂が悪いのも要員だと思います。
異世界もの、とくに「小説家になろう」の「冒険者組合」「ステータス」「生活魔法/浄化魔法」は共通認識、シェアワールドとも言われるレベルです。
前者二つは間違いなくゲーム固有の世界観です。
TRPG、そして古くはウィザードリィからと思われる、冒険者組合と併設酒場については、あれは「中世の職人組合」ではありません。
『西部劇の酒場、義賊系アウトローの集まり』が原型なのです。カオティックグッドはアメリカ的正義なのです。
「君たちが酒場に入ると、カウンターにはしけた面の親父がいる。店内には安酒の匂いが充満している。手配書がいくつも貼ってあり、頼れそうな面構えの連中はたくさんいる」
そういう場所なのです。
テーブルトークはアメリカ生まれだからね!
トールキンの指輪物語の影響はかなり強いといわれていますが、D&Dの作者は「それほど……」といってるみたいです。
では中世風ファンタジー冒険者組合の起源はなんでしょうか。
まず指輪物語の冒険ありき、ですね。粥村、今はブリー村の冒険者、です。
冥王サウロンがいて、中ボス(バルログや黒の乗り手)がたくさんいて、裏切り者がいて(白のサルマン)、最初一緒にいた人間、ホビット、エルフ、ドワーフ等種属混成の冒険者たちが冒険し、分かれ、それぞれの地域で軍勢を率いたり、孤軍奮闘したりする。
日本では間違いなく、ドラクエ3のルイーダの酒場でしょう。仲間を作成、育成、転職。あれが原点だからこそ日本のファンタジーブームはあると信じています。
次に実在の話から。
古代ギリシャ。アルゴー隊の冒険は、冒険者の集団です。多数の魔物を狩り、その魔物の毛皮や奪い取った品を有効活用するという意味で。呪われたり祝福されたりロマンスありなのも冒険者です。
では中世。中世では武者修行の遊歴の騎士がいました。そして遊歴の騎士が憧れた存在、それが……
アーサー王伝説であり、聖杯探索であり、シャルルマーニュ十二勇士の騎士物語であり、当時の傭兵の活躍なのです。
あとは聖ジョージの竜退治も忘れてはいけませんね。
そしてもう一つの冒険者の原点。後述いたしますが、それはやはり【中世の十字軍遠征】とそれにつながる近世の【ルネッサンス】でしょう。
MMORPGから導入されている概念「ギルド/クラン」は『チーム/クラブ』ですよね。
なろうに投稿されている小説でも、チームとしてのギルドが記載されているので混乱する方もいるかもしれません。
他職が組合でギルド?という疑問がでてきます。読んでいけば前者か後者かすぐわかるんですけどね。
中世欧州風ファンタジー、厳密考えたらいけないのです。
読者に、「中世はクソを窓から投げていたからこの世界も」とかいっても人気が下がるだけです。猫耳少女やエルフ美少女はいつも清潔なのです!(力説)。
う○この話ですが、窓から投げ捨てたのも事実ですが、罰金も科せられていた時代もあります。おまるもあります。
ベルサイユ宮殿はトイレないから~って聞いたことありませんか?
ちょっと待って。ベルサイユ宮殿のトイレの話は「近世」です!(ようやく本題)
中世→近世→近代のうちの近世なのですね。
近世。それは大航海時代であり、ルネッサンスの時代です。日本だと戦国時代ですよね。中世縛りするより近世まで時代まで広げたほうが、創作では楽になりますよとおすすめしたいです。
【ワインボトル./ガラス】
吸血鬼がワイングラスにワインを注ぎ~と描写して調べ直しました。
ワインボトルも近世です。近代になると大量生産されました。
工業基盤になるのはいいのですが、燃料が大量にいること。当時から森林破壊が問題になっています。
火力は鍛造とは比べものにならないほど必要で、だいたい1200-1300度ぐらい。中世は1100度ぐらいで作っていたようですね。火事対策が大変だったようです。
製鉄の鍛冶の温度が800度です。修正なら300度ぐらいで可能。
ワインですが、それ以前は樽から直接移していました。
コルクはコルクオークからですね。あの木の粉末がぱらぱら落ちるのが当初は問題だったそうです。
文明の象徴ともいうべきものにガラスがあります。1100度まで熱する必要があるためです。
ガラスはエジプトの古代からありました。ローマ時代にはかなり発展しましたが中世前期でいわゆる衰退、停滞期に入り、8-9世紀頃再開。この頃は文化遺産が少なくいわゆる暗黒時代もこの時期です。
9世紀初頭カール大帝の時代に学問の重要性を確認、ルネサンスへ繋がります。
さて文明衰退というには正確には語弊があり、一部の技術は修道院で秘匿されていました。そこでガラスがでてきます。
文明隠蔽期とかそっちのほうが厄介ではと思いますが……
ただし例えば魚を樽に入れて保存などは1300年代まで喪われていましたしローマンコンクリートなどの建造技術は喪われました。数々の料理などの文化は後退していた面も否めずそこは学者様の研究を待ちたいと思います。
ガラスそのものは欧州では8世紀あたりから作成されました。この時期に教会のスタンドグラスなども作られました。
透明なガラスは13世紀あたりには存在していたようです。無色透明なクリスタルガラスが確立されたのは1550年頃。17世紀には欧州全土に広がりました。
18世紀末になると透明な板ガラスの製造がはじまり、19世紀に現代ガラスに連なるガラス技術が発達したのです。
それ以前、中世はコップはほとんど木製でした。希に金や銀、陶器や希にガラス製があったぐらいです。
皿は木製、真鍮、錫など。貴族は金や銀の皿を使っていました。
【紙】
羊皮紙ですね。羊皮紙は中世です。紙は中世もあります。
亜麻が原料で、8世紀のアラビアから十字軍を得て、12世紀頃ヨーロッパに伝わりました。手漉きです。
原料は木綿くずになり、15世紀から印刷機が普及。
1670年に世界初の製紙工場が米国で生まれます。
羊皮紙のほうが雰囲気はありますが、印刷物と紙どちらを利用するかはお好みで。
和紙による木版印刷も同時期です。和紙自体の歴史はもっと古いですね。
【硝石】
有名漫画でもう○こから作られると評判の硝石。
中世にあったか、というとありました。黒色火薬ですね。
ただ銃が活躍すると一気にファンタジー感がなくなります。そういう方も多いでしょう。同じく個人的に好きじゃありません。
ソーセージやハムなど、加工肉にとって硝石は必要なので火薬はありません、というのは危険。
ボツリヌス菌の増殖を抑えます。
東欧やインドで採れます。日本や北西方面の欧州、東南アジアはう○こから採取してました。製法も確立されていたので気になる方は調べてみてもいいかもしれません。
人糞のほかに、家畜の糞やコウモリの糞からの採集できたらしいです。
フランスでは免許制で床下の硝石をあさってよい許可をもらった専門職までいました。硝石はそれほど大事だったのです。
16世紀初頭には水と硝石を使い、溶解熱を利用した製氷も生み出されました。ワインを冷やす、シャーベットを作るなどに発展。アイスクリームも生まれています。
本格的な製氷は近代からです。
【じゃがいも・トマト】
じゃがいも警察、といわれるぐらい気になる人には気になる食べ物。じゃがいも。
近世の食べ物です。1550年頃、スペインから欧州に伝わり、日本にもきました。トマトやトウガラシ、カボチャもです。あとついでにタバコ。
救荒作物として題材にした魔王ファンタジー小説もありましたね。
トマトがないと、ケチャップがないので早急な導入が必要です。ケチャップは最古のレシピは1795年だそうです。ギリギリ18世紀。
欧州では主食になるぐらいだから、じゃがいもがないほうが不自然じゃないかなあ、と思う次第。
【煙突】
煙突の普及は16世紀の近世から。それまでは贅沢品。
じゃあ竈や暖炉の煤はどうなったかというと。煤だらけです。はい、中世の農家の家は煤だらけ! 雰囲気でますよね! 採用しないほうがいい設定そのものです。
ちなみに煙突掃除人はストリートチルドレンのお仕事で、とにかく死亡率が高いお仕事です。多分冒険者よりも煙突掃除人のほうが死にます。詰まったら死んで、落ちたら死んで、煤で呼吸器がやられて死ぬのです。
【レイピア】
じつは中世後期から近世に普及した武器。
甲冑を着ていないことを想定した平時の武器で決闘用。
魔法剣士や魔法戦士の武器がレイピア多いのは、やはり赤い万能魔法使い職のイメージでしょうか。
日本では儀礼用の鍛刀技法で作られた『水口レイピア』が発見されました。年代は1600-1630年で、17世紀初頭のものです。西洋刀の違いは柄に実戦向きではない銅が使われていることです。
【コーヒー】
コーヒーが欧州に伝わったのは16~17世紀。TVCMでも江戸時代末期にはコーヒーが日本に入っていたとやっていましたね。
飲料自体はかなり古いです。9世紀説と13世紀説が古いので中世、ですね。イエメン圏で飲まれていました。
ちなみにブラックで飲むのは日本固有なのだとか。
【紅茶】
紀元前から不老不死の薬として飲んでいた中国は凄い。
英国には16世紀頃です。
【時間・時計】
中世13世紀までは不定時法(夜明けに起きて日が沈むと終わり)が中心で、それ以降は機械式が中心になり定時法になりました。
時計は中世からあり、日時計、水時計中心。機械仕掛け等は14世紀ぐらいにイスラム圏から入りました。目覚まし時計は16世紀にはあったそうです。
12進法ではなく10進法を採用されていた場合もあります。
時計はミサの時刻を正確にするため、意外と? と発展していたと思われます。
キリスト教圏において、時間は神の支配する領域として考えられ、時計によって労働時間が資本化し、職人との対立を生んだという歴史があります。
現代の一日24時間が欧州で採用されたのは1893年イタリアから。ほぼ20世紀の19世紀、近代です。
・懐中時計
軍用品。1500年代。つまり16世紀にドイツで生まれたとされます。実用できるものは17世紀のものからだそうです。
・腕時計
王侯貴族から美術品として、そして軍からの需要です。確認されているものは1790年代後半、18世紀には存在していたということになります。
スイス生まれですがフランスで注目。実用的なものは近代。19世紀初頭からオメガとカルティエがしのぎを削ることになります。
【火の起こし方】
近世も実は火打ち石、火打ち金から変わっていません。叩いて火を興します。鋼鉄の普及につれて、鋼鉄製火打ち金が作られました。
火口は木屑や布を使います。
非常に面倒だったそうで、基本朝に火を興して眠るまで火はつけっぱだったようです。
火の入手が難しい以上、いわゆる大砲も装填から発射まで非常に時間がかかるものでした。事故も極めて多く、攻撃魔法がある世界だと大砲は絶対流行りません。
フリントロック式が採用されたのは17世紀末あたり。
マッチの登場は19世紀からです。
【武具のお値段】
近世の武具のお値段の話し。
百年戦争のジャンヌ・ダルクを例にとってお話したいと思います。
甲冑は砲弾、石弾対策で必要で、喉元まで鎖で覆っている完全な、白いフルプレートメイルだったと記録に残っています。
甲冑:100リーブル トゥール貨リーブル
軍旗・槍旗:画家へのデザイン料込み25リーヴル
甲冑価格は当時の武官の一、二年分相当とのことで、ジャンヌの甲冑は一級品であると同時に扱いも破格だったと思います。
逆算すれば【武官】の一ヶ月あたりの給料も算出できます。槍旗高い。
余談ですが旗持ちは大変重要で、視界内にいると士気が違うそうです。
ちなみに通貨は下記の通り。
1リーブル=20ソル=240ドゥニエ
他の地域や別地方の通貨、通貨の質にもよって変わるのはご了承ください。
時代や地域によって発行された貨幣の材質は違います。また地方によって発行されていました。
普段はドゥニエ単位の貨幣を使い、多額の決済は金貨を使う、のようなイメージです。
多額決済用の金貨は、一概に通貨単位に変換できない場合もあったようです。1リーヴル=金貨一枚の時代が多かったみたいです。
ジャンヌダルクの身代金は1万リーヴル。ということは、武官が一生かかっても返せない額ですね。
同じく戦争で占領した土地の返還は金貨4000枚だったとか。このときは記念貨幣で支払われたらしいので、金貨1枚1リーヴルだとすると4000リーヴルということになります。
ジャンヌダルクは最高級品の品なので安物の相場目安を。
甲冑 :25リーヴル
兜 ;3~4リーヴル
胸部鎧と腕甲、手甲セット:16リーヴル
脚甲:5.5リーヴル
安い剣:1リーヴル
安い短剣:1リーヴル未満
【給料のお話】
大元帥:2万リーヴル(年)
騎士:100-120リーヴル(年)
羊飼い:3リーヴル(年)
大奉行:10リーヴル(年)
宝石細工師:3リーヴル前後(月)
兵士や護衛:5リーヴル(月)
人夫:20ドゥニエ(一日)
戦争は仕事だったので兵士や騎士、傭兵は臨時ボーナスあり。
一攫千金狙いなら傭兵になりますよね。対価は命。騎士になると大出世というのもわかると思います。
【通貨とパンのお値段】
ドゥニエの目安はパン1個、です。資料が多いので引き続きドゥニエで説明します。
まず通貨は、時代によって銅貨か銀貨でした。金属の生産量、流通量によって変わります。同じ通貨単位でも、金属の種類や、含有率が違ってくるので製造時期は価値は違ってきます。
銅貨100枚=銀貨10枚=金貨1枚の図式が多く、それを嫌う人も多いので、頭の片隅においてもらえれば幸いです。
百年戦争時代の白パン1個=1ドゥニエが主流です。不作は? 量が減ります。パンが小さくなります。もっと不作になると例外になり2ドゥニエになります。
白パンは小麦パンですが日持ちしません。一日で食べないとだめ。
黒パン。あの少女がおばあさんに食べさせたい今は黒パンしかない、で有名な堅いパンはライ麦パンです。焼いてから三日ぐらいで食べ頃になり、一ヶ月持ちます。堅くてお湯やスープにひたさないと食べられません。
どれぐらい堅いかというと、斧で叩き割るぐらい堅い。パンは武器。あれ。冒険者の携帯食の黒パンって……
近代になると、一日の食費の半分をパン代に占めるほど高騰する時代もあったそうです。
パンに関しては小麦パンを焼く職人と、ライ麦パンを焼く職人は明確に区別され、またパンを焼く許可、大きさなど厳密に管理されていました。
【プラチナ】
プラチナです。ホワイトゴールド(プラチナと金の合金)と混同されがちで、白金という表記を嫌がる方もいます。
プラチナがでることに忌避感を感じる方もいるので、ご注意を。とくにプラチナ貨とかは嫌がる方がいますね。
D&Dにはプラチナドラゴンがいますけどね!
古代エジプトから存在はしていましたが、価値を見いだされたのは18世紀から。それまではまがい物の銀として廃棄されていました。融点が高いので加工できなかったのです。融点1800度です。
加工しにくことから、近代では工業利用が中心だったようです。
ミスリルが「真の銀」という意味なのに、実在のプラチナが「まがい物の銀」扱いだったりするのは面白いなあと思います。
オリハルコンは真鍮のことだった説が根強いですね。真鍮は貧者の金、ともいわれていました。
【宝石のお値段】
感想で質問があったので調べたものを追記しました。
ルネサンス時代で記録がありますね。イタリアの宝石ギルドの職人の記録です。
ルビー:800スクード
エメラルド:400 スクード
ダイヤモンド:100スクード
サファイア:10スクード
1スクードはいまでいう2、3万円ぐらい?
ルビー、エメラルドが圧倒的に高いのです。逆にダイヤモンドの価値の低さに驚きます。
その後、ダイヤモンドは同じダイヤで加工できることが判明し、価値をあげていきます。
近世ではユダヤ人が現物通貨の代わりとして所持することになりました。
金は重いですからね
【中世は技術衰退期/十字軍遠征とルネッサンス】
中世は宗教の権威を広げるため、ローマ・ギリシャの文明破壊が意図的に行われました。それと同時に古代ローマ・ギリシャ時代から培っていた様々な技術が失われていました。
技術的には欧州は遅れていたのです。トルコのオスマン帝国やアラビアのほうが優れていました。
どれぐらい失われていたかというと、例えばニシン。中世で一般的な食材の鰊。鰊の樽詰め保存って14世紀まで失われていたみたいなのです。再発見され、広まりました。
また建築技法の多くも失われ、一部の修道士のみ受け継がれていたような状態です。教会はちゃんと建てなきゃいけないからね!
中世のお城や砦って石造りのイメージが多いですけど、当時は木造が主流です。
平時にお城にいる騎士や兵隊さんは数人程度とのこと。城というと城塞都市や宮殿みたいなイメージですがどちらかというと日本の古い城の欧州版。木造ですから。
城塞都市もルネッサンス以後のものです。
東欧の石城や宮殿はまた別の規模と思われます。
技術衰退期の見直しは十字軍の遠征から。このときのイスラム圏では、失われたローマの技術が独自発展していました。機械時計などその最たるものです。
イスラム圏から新たに再入手した技術は「火薬、羅針盤、活版印刷術」が三大技術といわれています。
時計によって労働時間が資産になり資本主義が加速、活版印刷によって情報の速度が強化。火薬によって大砲が生まれ戦争の形式が変わっていきました。オスマン帝国には青銅製の銃もあったようです。
そしてイスラム圏に残された文献を解読し「ルネッサンス(再生)」に至ります。ルネッサンスは宗教的な面から抵抗されましたが、十字軍遠征の経緯で教会の権威が失墜しており、発展した面もあります。
建築、芸術、戦争をはじめとする技術が見直しが始まります。戦車の素案もこの時代に生まれています。
中世欧州より、ローマ・ギリシャ文明のほうが進んでいた面もあるのです。
街道整備もそうですし、煉瓦作りもそうですね。煉瓦だけは建築、街道整備のためローマ時代から失われることはありませんでした。ブランド印がつけられ、どこで作られたかわかるようになっていたのです。
文明は一概に進んでいるとは言えない――かつて栄えた時代があり、その時代の遺物を取り戻す。
アラビア語の書物を翻訳し、古代ギリシャ語、ローマ語、意味が時代によってコロコロ変わるラテン語の書物を探し、集め、見たことのない品物を手に入れ解析、解読、翻訳し、新しいものを創造する。
その結果生まれたのが13世紀にイスラム圏から欧州に伝搬した黒色火薬と大砲であり、さらに進化して火縄銃、マスケット銃になりルネッサンス時代の標準装備になる。轟音を立てて敵を威嚇し即死たらしめる。革命的だったと思います。
ここらは冒険者の原点になるのではないでしょうか。
知識チートもルネッサンスの発展具合を知ることで、より違和感のないものになるかもしれないですね。
【フォーク】
基本中世は手掴みで食べていました。日本にきていたルイス・フロイトも手掴みで食べていたという記録があります。古代ギリシャやローマ時代はフォークを使用しています。
スプーンでスープを飲み、肉やパンはナイフで。それら切り分けたものを手掴みで食べていたわけです。熱々の食べ物とかあまりなかったのかな。調理用のフォークは存在していたようですが食事には使いませんでした。
フォークは西欧では神聖ローマ帝国ぐらいでなかなか広まりませんでした。
近世でもナイフとフォークを使い始めたのは16世紀のイタリアぐらいで、英国がナイフとフォークを使い始めたのは18世紀から。
普及の原因はパスタ。考えたら、まあ見苦しいですよね。今の形の4本又の曲がったフォークは19世紀のドイツから。意外と新しい食器なのです。
ちなみに箸は中国は紀元前1100年頃から、日本は唐箸として、5世紀あたりから広まったとされています。
【閑話・腰掛けトイレ】
紀元前2200年前のシュメール時代には腰掛け便器と下水道があったそうです。
古代ローマにも同様の施設があったそうです。ただ、衛生管理はそれほどよくなく、そのまますぐに肥料にしていたので寄生虫問題があったとか。
タンク式の腰掛けトイレは16世紀末に英国から。
意外と古い!
【閑話・中世の家】
二階窓から汚物を投げ捨てた中世欧州とはいったい…… ちなみに近世も似たような状況です。
何故二階からかというと都市部の一階はどの家もだいたい倉庫です。あとおまるもありました。
う○こを二階の窓から投げ捨てたのは事実のようです。サンルーフのように庇が伸びてるような建築になっており、人々は汚水を避けるためにそこへ移動したと言われています。。
ハイヒールも汚物を踏まないように生まれた、というのは俗説だったようです。
こんな知識女性に話したら一発でヒかれますので話さないようにしましょう。あ、知っていると思いますが暗殺とレディファーストの件もですよ?
二階から投げ捨てたと書きましたが、都市部の密集地は四階建ても多く、高い場所に住んでいたみたですね。パリには1407年に建築された錬金術師の住居が現役に使われているとのことです。
パリは15世紀には公衆トイレや糞便を置く場所があったと言われております。とくに処理はしていなかったのが問題でした。
下水道は17世紀に整備されて、処理せず川に垂れ流したので悪臭の原因になりました。
パリが華の都に生まれ変わるのは19世紀、知事オズマンにおけるパリ大改造によってです。
ルーヴル宮殿が汚物まみれになったためヴェルサイユ宮殿に引っ越してきたという歴史も話さないほうがいいかもですね。
1858年にテムズ川で糞便が川をせき止め! 大悪臭が発声したので近世どころか近代まであまり改善されなかったと思います。
もう<浄化>でいいと思います。いいよね?
投げ捨てられた糞尿は、豚や犬が食べていました。基本放置で悪臭です。二、三日で土に還りますしね。異世界ならスライムにでも食わせておきましょう。
中世に個室という概念は薄く、共同生活で同じ場所で寝ていたようです。
村などは一つの大きな家にみんなで寝ていたんですね。
個室とプライベートの概念が生まれたのは煙突、そして部屋を分ける仕切りが生まれたおかげだとか。
【ついでに風呂】
中世では市民は蒸し風呂、貴族は湯船型だったそうです。
お風呂屋さんもありました。地方の村も公衆浴場です。
近世に近付くにつれ、また風呂に入らなくなっていったそうです。理由は宗教で、水は不潔なもの、みたいな考えがあったのです。
軍隊や戦争中でも水浴びしていました。
ジャンヌダルクもそうです。裁判記録で【美しき公爵様】アランソン(既婚。妻の名もジャンヌ)が「ジャンヌがこっそりお風呂入ってて水浴びしてて、抜けるような白い肌だったけど、不思議と情欲を抱かなかった!」と証言しています。
青髯ことジルド・レも同様に胸が小さくて可愛かったと裁判で証言している話も。
お前ら……
中世でお風呂に入らない、っていうのは近世貴族のお話です。服はカビだらけ、行水もあまりしないぐらい。匂いがきついので香水が発達しました。
彼らが体を洗うようになるのは、17~18世紀頃から。
庶民には風呂屋があったのですが、売春などの犯罪の温床でもありました。
風呂に入らなかったのは理由がちゃんとあります。
空気が乾燥しているので、入る必要があまりなかったという点。
欧州は水が硬水が多いという点。石灰が混じる場合もあり、胃腸の弱い子供に向かない場合もあります。石ができやすくなるという話もありましたが、今では否定されているみたいです。
水を飲むよりお酒を、という地域が多かったのも理由です。
それでも下水、汚物処理をまるでしていなかったので、黒死病が流行ったりはしていましたが。
日本の話をすると、やはり蒸し風呂がメインです。湯船式は治療等ですね。
今の湯船型は戦国時代までは立ち風呂でした。温泉は深く、棒立ちで、湯船に浸かります。
座る温泉風呂を最初に始めたのが秀吉と言われています。
お風呂があったローマ時代は本当に凄いなあと思います。
【近代と欧州が強国になった理由】
文明後退していた中世が大航海時代とルネッサンスを得て強国になっていきました。それは造船技術の発達と、船を使うことによって大砲を運搬できるため、軍事力に差がついてきたわけです。
とりわけ、海軍というのは労働環境が劣悪でした。英国は海岸沿いに歩いている健康そうな人間を強引に拉致して! 海兵にしていたぐらい人気がない職業だったようです。
大航海時代は大砲というイメージがあり、中世風ファンタジーで忌避される一員じゃないかなとも思います。あれ、DQで大砲の援護射撃あったような……
17世紀に発明された蒸気機関が18世紀に実用化しました。ジェームス・ワットさんが1769年に開発し、単位ワットの語源の人です。ちなみに馬力という単位もこの方です。
蒸気機関による発明は産業革命を興します。
今まで水車によるエネルギー確保が、水を頼らずにどこでも動力を得ることができるようになったんです。工業が川沿いから離れて発達することができる基礎ができたというわけです。
彼の死後、蒸気機関はさらに改良され、蒸気機関車、蒸気船、鉱山のポンプ実に様々なものが発達していきました。スチームパンクはここからです!
木炭の時代が終わり、石炭の時代に移ります。コークスはゲームの武器防具の素材で出てくる場合がありますね。18世紀から本格運用されます。
【石炭と森林破壊】
近世に入って一番顕著なことが森林の伐採です。
中世では大規模な森林破壊はそれほど起こっていませんでした。宗教的な理由で、改宗を迫るための伐採はありました。積極的に伐採させたのです。ドルイド信仰を放棄させるためですね。森との共生知識が失われたという話もあります。
近世になり、造船、製鉄の需要で跳ね上がり、ものすごい速度で森林の木材が伐採されます。アメリカも同様で原生林はあっという間に刈り尽くされました。
欧州のある森林の多くは広葉樹のオーク等が主流で、白い森といわれていました。
ですが、上記の森林需要のため、当時から深刻な環境破壊を生みます。そして土砂災害の多発等が生まれ、建材に使う成長の早いホワイトオーク(クリスマスツリーのもみの木のあれ)等、生育の早いものばかりを植林。
針葉樹は成長が早く鬱蒼と生い茂る森になったので黒い森、と呼ばれます。ドイツ語だとシュヴァルツヴァルト(黒い森)って響きがいいですよね。
ちなみにホワイトオークは日本の木造住宅建築には不向きだそうです。
この木材不足に石炭が見いだされ、蒸気機関の燃料として産業革命につながります。
石炭も14世紀では家庭用燃料として使われてはいたんです。ですが、英国で禁止になるほど。煙が凄いから。
やはり石炭あたりから、ファンタジーとしてイメージしにくい、近代になるのかなあと思います。
【盗賊ギルドについて】
読者様から盗賊ギルドについて初出のお話がでたので、近藤局長に実際に質問してきました!
有名ゲームブックである「ファイティングファンタジー」シリーズの舞台「ポートブラックサンド」で、これは別名盗賊都市。
「盗賊都市」というゲームブックがイギリスで1983年に発売されていますので、この町の存在が確認された最古の盗賊ギルド、かもしれないです。
なお続編の「真夜中の盗賊」(英国:1987年)はずばり主人公の目的は「ポートブラックサンドの盗賊ギルド」に加入するための試練となっています。
ゲームの盗賊ギルドはイギリス初だった……?! あくまで仮説です。
1983年より前に盗賊ギルドが存在した話を知っている方は情報提供お願い致します!
【銃や大砲の原形】
個人的にファンタジーで銃は邪道と感じてしまいます。近代的、科学的なものが間近であり魔法と混在することに違和感を覚えるからです。多くの銃器ありファンタジーを舞台にしたゲームが発展し辛いのもそのバランスが崩れているからと推測しています。
さて筆者の嗜好はともかくとして銃器と大砲の歴史です。
最古の記録は中国の大砲の原形とされ、一人運用は不可能とされています。その発展である火槍が誕生しまず竹!を使ったもの。次に金属のものが生み出されたと言います。最古の現物は1288年物の青銅製火槍です。
ギリシャ技術はイスラム圏では生き延びており、マムルーク朝ではモンゴル経由で伝わった火砲が誕生。その後オズマン帝国も同様に青銅製の銃を開発し運用していました。
とくに大砲は運用がシビアで、多くの人員が必要だったとされています。
これらが十字軍遠征によって欧州にもたらされ、その後欧州14世紀(1326年)に大砲がでてきます。
その後ドイツで改良され続け、火縄銃の誕生になります。
金属素材は鋳造方式なので青銅が多かったとされます。スペインの無敵艦隊を破ったフランシス・ドレイクが用いた大砲こそ、合金の配合比率を変えたもの。いわゆるガンメタルで製造されていたのです。
青銅砲は実に優秀で産業革命が起きるまで、19世紀前半まで戦場で使用されていたと言われます。
次に日本。
1543年に種子島に火縄銃が到来したのは歴史の教科書にも掲載されているお話です。各大名はこぞって火縄銃を導入し、信長に敗れた武田信玄も火縄銃配備率は8%と高かったので騎馬運用のみで敗北したわけではないのです。
徳川家康が英国から輸入したものも青銅砲であるカルヴァリン砲でした。射程は500メートルで無敵艦隊を破った大砲と同じものです。
国内で作る鋳鉄だと粘りが足りず脆かったのです。
そこで何故か日本は「鋳造の合金を作る」のではなく、「鍛造でやればいい」といい、ついには鍛造火縄銃と鍛造大砲である徳川砲こと芝辻砲を生み出しました。砲弾こそカルヴァリン砲より小さなものしか飛ばせないものの、これは当時でも世界でトップクラスの射程、600~700メートルの飛距離があったといわれています。この大砲で大阪城の天守閣を狙撃したのです。
ライター式着火砲のフリントロック式も日本に伝わってはいたのですが、材料となる燧石が算出できずに諦めたみたいです。日本は鉄鉱石は平安時代には枯れてしまい、燧石はないわ、資源的には恵まれていないですね。
その後、徳川の治世と優秀さが災いし火縄銃と大砲の発展が止まりました。
【最後に】
つらつらと書き連ねました。
もし訂正やその認識間違っているよ! がありましたらご連絡お願いします。
通貨、単位、風習。
これらは正直に言うと、わかりやすいやり方でいいと思うんですよね。
映画の吹き替えと同じです。
3フィート棒といわれてもさっぱりですが、映画とかだと1メートル未満、とか0.9メートルで。作者は映像を現代に吹き替えて翻訳しているのです。
オリジナル単位でやってもその都度説明入れないといけないわけですし、そもそも作者様が伝えたいのはそういう細かいところではないはずです。
これらのお話は、戦後の時代小説にもありまして。一貫とか一尺をメートル法に直して描写していた作家様もおりまして、色々と論争になっていたらしいです。
現代の読者に風呂に入らない生活やトイレのない生活を想像してくださいとお願いするのも難しいかもですし、そもそもそういう描写より先にやりたいことが作者にはあるはずです。
知った上で「ああ、俺の世界、近世風ゲーム世界だから」と説明すればいいと思うのです。中世制約きつすぎます。まず手掴みで肉を食べるとか想像したくないし、あなたのキャラクターもそんなことしないでしょ?
フランスは資料が豊富なため、引用が多くなってしまいました。
ゲームは中世欧州って話からスタートしましたが、実際雰囲気的にはお城や戦争といい、近世東欧のほうがイメージ近いんじゃないかなあと思っています。中世はイメージできないぐらい遅れている、というか……
そして気になった方は東欧の歴史も調べてみると面白いかもしれません。
少しでも参考になれば幸いです。
このエッセイは多くの資料をもとにしておりますが、主となるソースはTRPG雑誌「ウォーロック日本語版」(1986-1992)が多くを占めています。
実際にウォーロック誌二代目編集長「近藤功司様とご質問などの機会にも恵まれました。
中世フランス関係の資料は東京書籍「ジャンヌ・ダルク」「フランス中世の世界」などやお師匠様である商業作家「如月」様から教わった中世知識です。ラテン語読める中世研究家といってもいいぐらいなんすよ、自分の師匠……
改めて多くの関係者の方に感謝いたします。