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おさらいHowling Moon(ばーじょん1.2)  作者: 椿屋 ひろみ
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魂の唄

「唄うって?」

神殿に辿り着いためいは困惑した。三人の頭上には石英の声紋が眩い七色の光を放っていた。

「唄って、心にあるだけの喜びを君の中から解放して。そうすれば石英の声紋は君に力を与えてくれるから」

琉はめいの胸に手を翳し、何かを感じ取ったのか、意味ありげに微笑んだ。

「やっぱり、君は選ばれた子なんだね」

「どういうこと?」


 すると、三人の居場所を見つけたベーゼは神殿を目がけて走ってきた。

「止メダ!貴様モ石英ノ声紋モ破壊シテヤル!!」

触手を捩じらせ、ベーゼは琉と涼名に向かって有毒な白煙を飛ばした。


 二人は無抵抗のまま空高く飛ばされ、地面に叩きつけられた。

「いやぁぁああっ」

悲鳴を上げるめいに琉は最期の力を振り絞って叫んだ。


「早く、この敵と戦えるのは君しかいないんだ」

琉に背中を押され、めいは空を突き抜けるくらいの澄んだ声で思うまま歌を唄い始めた。

(なにこれ・・こんなきれいな声出たことない。口から唄が溢れてくる・・なんて気持ちいいんだろう。生まれたてのウサギを撫でてるみたい)


穢れを知らない聖なる唄声を浴びたベーゼは苦悶の形相でもがきはじめた。

「現界ノ小娘ガ・・何モデキナイクセニ」


 歌声は天を突き抜け遠くまで木霊した。

この美しい波動に呼応するように桃の花びらが五月雨のように吹雪いた。


傷だらけの体を起こし、琉と涼名は遠くまで響く歌声に大粒の涙を流した。

「これが・・無垢で美しい・・僕たちの故郷のことを思い出しちゃった」

琉は腕で涙を拭い、めいの方を見つめた。

「やっぱり、運命の子だね。あの時の子と同じ。今度は失くさないから」

涼名はやがて消える雲の、切れ間の漏れる光に微笑んで手をかざした。



 石英の声紋の故郷…ヴァルドラム村に聳え立つ立派な神殿に彼らは住んでいた。


大きな谷間に広がるこの村の住人は美しい石英の声紋の波動に好意を抱き、捧げ物として美しい音楽や舞踏を生み出してきた。

それに応えた魂の穢れを消す力を持つ声紋は病める者の魂の傷を癒してきた。

この村はこのキャリスと共に数千年絶えることなく栄えたのだ。


そして、住人に何世代も愛された石英の声紋は人間の形をした自身の化身と自分の世話をする二体の忠霊を作った。

毎日敬い感謝された彼らは歌ったり踊ったりしながら幸せな日々を送っていた。


 だが、ある日ひとりの十字架族の男がベーゼ化した姿でやってきてこの村に襲いかかった。

民家は燃やされ、望みの食物を実らせてくれる豊かな大地は枯れ果て、罪なきヴァルドラムの住民は瞬く間に消滅した。


神殿に籠って悲しみに明け暮れる忠霊に声紋は果てしなく長い旅に出る決意を伝えた。

「いつまでも悲しみに囚われてはヴァルドラムの村人の魂は浮かばれません。私の化身と共に現界に参りましょう。そこならあの悪魔は手を出せないはずです」

「それじゃあ・・どうなさるのですか?」

「私は現界には行けないので、誰も足を踏み入れることができない場所で新たな世界をつくりそこで待つことにします」

体一つで故郷を去った彼らは現界で何百年もの間、誰にも救いの手を出されないまま名前や姿を変えながら人間として生きてきた。


・・それが、彼らジェムスである。


 石英の声紋はめいの歌声とともに共鳴した。

すると、めいの体は光に包まれ、背中には彼らと同じ蒼と翠の翼が生えた。


「なんだ、この気は・・紅月剣が俺と一緒になろうとしてる」

めいの歌声が現界まで聴こえてくると、ヨミの背中にも翼が生えた。紅月剣は閃光を放ち紅い炎に包まれた。

「やっと僕たちを救ってくれる人が来た・・魂を君たちに委ねるよ」

テルの膝で横たわる響太は微笑んでヨミの方を向いた。


「ありがとよ。力がみなぎってきたぜ!」

急に身軽になったヨミは天高く火柱をあげる紅月剣を握りしめ、疾風のようにベーゼに切りかかった。

彼女の眼には月色の光が湛えていた。

「マサカ聖圧!?コンナ小娘二使イ熟セル筈ガナイ!!!」


 めいは天国の大空にいる心地になり我を忘れて、恍惚の表情で歌い続けた。

誰も気づかないが、その姿にいつかアヤカシ界で会った謎の女の幻と重なった。


「俺は小娘なんかじゃない!!男だ!!」

いつもより数倍身軽になったヨミは大きく跳躍し、ベーゼを真っ二つに切った。


「この世を犯す邪悪な鬼よこの世を守る十字架のもとに妖界の彼方の闇沼に去れ」


 切られた敵は灰になり闇に融けて行った。

ベーゼが姿を消した途端、観客が霧と共に現れた。


「みんな~盛り上がってるかい?」

琉の掛け声とともに何事もなかったかのようにライブが再開した。

めいとヨミとテルはサイリウムを力いっぱい振って応援した。



 ライブを終えて、ジェムスに会うため三人はさっそく控室に侵入した。

控室のドアを開けると誰もおらず、がらんどうとしていた。

「なんだよ、帰ったんじゃないのか?」

ヨミはあっけにとられた顔をした。

「そんなことないわよ。まだ終わったばかりだし」


めいは辺りを見回した。

「そうよ、そんな早く出るわけない」

テルは長机の下を必死に探した。



 ふいに鳴った破裂音と共に三人の背後から大量の花吹雪が舞った。


三人は目を大きくして振り返ると、ジェムスが嬉しそうに立っていた。

「君たちのことだから来ると思って幻術仕掛けておいたんだ」

掌から花弁を溢れさせて響太は言った。


「引っかかると思ったら見事に引っかかったな」

いたずらな笑顔で琉が八重歯をみせて笑った。

「三人とも助けてくれてありがとう」

涼名はヨミ達に拍手をした。


 ヨミは暫くきょとんとしていたが、あまりの可笑しさに豪快に笑った。

「そっか、お前たちに会えてよかったよ。すっげー久しぶりにエキサイティングしたぜ」


テルとめいもつられて笑った。

「創聖器のためにも早く統一神の器を壊さねぇとな。だって、俺たち仲間だし」

「ありがとう、ヨミ君」

ヨミは響太と、力強く友情の握手をした。


 その様子をみていためいの肩に、琉と涼名は手を置いた。

琉はヨミ達に聞こえないようにめいの耳元で囁いた。

「君の相棒、とんでもない呪いがかかってるよ」

「この前きいたわ。性欲の口紅のことでしょ?」


涼名は横に首を振った。

「それじゃ比にならないくらいのもの・・めいちゃん、ベーゼ退治よりはるかに辛い戦いになるけど君ならヨミ君を救える」

「そんな・・私、何もできないよ。普通の人間だしみんなみたいに特殊な能力もないし」

「この戦いで分かったけど、君にはキャリスと共鳴する特別な力があるみたいだ。まだ俺たちの他にキャリスは存在するからきっと彼らも力になってくれるよ。それに君は気づいてないけど誰も持ってない力を持ってる」

「誰も持ってない力?」

琉はめいの手を握った。

「それはこれから君がみつけるんだよ」

「ありがとう、私がんばる」



・・次の日の朝、芸能ニュースでヨミとテルが戦っている映像が流れた。

誰かが盗撮で隠していたカメラが戦いの様子を撮り続けていて、そのままリークされたのだ。


その映像に春野家の食卓が凍りついた。

「これ、ヨミよね。ジェムスのライブ会場で未確認生物と闘う謎の美少女だって」

めいはテレビのヨミに指さした。

ヨミは飲んでいたコーヒーを噴き出した。

「まじかよ。かなり面倒なことになったな・・これから気を付けねぇとな。関係ない人間まで巻き込みそうになったし」

二人は顔を見合わせ頷いた。



テルはいきなりテレビを抱えて激怒した。

「やだぁ、もうちょっと美人に撮ってよ。この角度自信ないのにぃ!」


ルルは焼き魚をくわえて呆れた。

「ボス、そういう問題じゃないでしょ。ホント今回は出番なしだったわ・・まぁ、未来のだんなさまに会えたからよかったけど」

「ルルねぇさま、発言がおませすぎます」

ルルとララの髪にはアヤカシ界で置き去りになったときに涼名からもらった星色の髪飾りが光っていた。



その頃、美少女フィギュアだらけの暗い部屋で、テレビでその番組を流しながらパソコンで何かを書き込んでいる男が薄ら笑みを浮かべていた。

「ふふふ・・また姿を現したね。これでやっと君の居場所を特定したからもうすぐ会えるよ」

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