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プロローグ

 よろしくお願いいたします。




「莫迦な……、これほどの力を持つ者が“人族”だと!?」



 燃え盛る炎の中、対峙する二つの影。

 一人は身の丈三メートルはある大男。

 額や肩肘、膝などからは鋭利な刃物のような大角が生えており、赤銅色しゃくどういろの肌に隆起した筋肉の鎧はさながらお伽話に出てくる鬼の様であった。


 

 それに対するは黒髪の少年。

 突飛した特徴はなく、中肉中背、平々凡々、同年代の男と比べて見劣りもしなければ秀でもしない、そんな普通の“高校生”。



 両者は武器を持っている。


 大男はその体躯に見合った“雷光がはしる”大斧を。

 少年は身の丈を超える“万象灼き払う”大剣を。


 

 “魔宝まほう”――。

 それは、並の兵器など足元にも及ばぬ究極にして至高の破壊力を秘めた力。

 二人の持つ魔宝まほうの斧と剣は、武器としての格は同等と言えた。


 雷と炎、相容れず、交わることのない二つの属性。 しかし二つの武器には決定的な“差”があった。



 “つかい手の差”が。



『何をやっていますの!? たかが“人族”の小僧一匹仕留められないなんて、“闘鬼族とうきぞく”は何時いつからそんな腑抜けになりましたの!!?』


「お嬢様はお気楽でいらっしゃる、“階位”第三位の我ら“闘鬼族とうきぞく”……、その身体能力を優に超える“アレ”が、本当にただの人族とお思いか?」


『口答えをする暇があるなら、その種族の誇りを見せてごらんなさい!!』



 ギラギラと輝く装飾を施された“魔宝まほう”の斧。

 どういう原理か、武器であるはずの“斧”が自身の“つかい手”である大男を叱咤する。男も憎まれ口こそ叩くが、その表情に余裕はない。


 男は思う、目の前の少年と比べ自分には牙も角も鋭い爪もある。体躯も何倍もあり、劣る要素など何一つ存在しないはずなのに何故、先程から攻撃が通用しないのか。


 少年の動きは全くの素人だった。大男の攻撃は幾千の闘いから学んだ生きた動き、数多のフェイントと洗練された技の数々。

 歴戦の戦士でさえ翻弄ほんろうされ、見抜くことさえできないであろう攻撃。


 だが、少年はかわす。


 偶然、運よく外れるのではない、明確に、そして意図的に“外す”。


 少年に男の動きの意味は分からない、フェイクも本命もその動きを目で見てからかわすのだ。

 恐ろしい動体視力と反応速度。


 男は焦る。

 戦闘においては敵なしと言われた“闘鬼族とうきぞく”の自分が、“人族”如きに遅れを取る現実に……。

 己を昂らせ、全力を出させる存在。待ち望んだ強者が唯の“人族”である現実に……。



『行きますわよ!! ワタクシの能力ちからを使いなさい』



 “魔宝まほうの斧”がそう告げると、刃に黄金の文字が輝き始める、闘鬼族とうきぞくの大男は斧を天高く掲げ、それを詠唱み上げる。



「我が血の運命さだめ仇名あだな土塊つちくれの愚者に、光輝ひかりかがやく雷帝らいていの一撃を!」



 空に暗雲がち込め、激しい稲光と轟音が場を支配する。

 魔力の奔流ほんりゅういかづちとなり、巨大な紫電しでんの龍を形作り少年を襲う。


 地を抉り、削り進む音はさながら滅びゆく世界を嘆き悲しむ神々の慟哭の様であり、その破壊の衝動に恐れおののいた観客ギャラリー達は我先にと蜘蛛の子を散らすように逃げていった。



『来る……、ツルギ』


「任せろ! 力の限り、ぶっ飛ばす!」



 紅蓮の業火を纏った“魔宝まほう”の剣。赤熱した刀身からは炎が噴き出し、あらゆる存在に喰らいつく。

 

 炎は少年の身すらく。

 

 力の根源、その爆心地。それを手懐け、迫りくる暴龍ぼうりゅうにその力を振るった。




 刹那ッ――。




 辺り一帯の大気は少年に向かい収束、逃げ散った観客含めあらゆる存在が抵抗むなしく飲み込まれ、そして――。




 弾けるッ――。




 無限の爆撃さえ矮小に思える程の力が解き放たれ、全てを外側へと押し出した。

 


 衝撃に吹き飛ばされそうになるのを大男はすんでのところで持ちこたえた。男の“種族の誇り(プライド)”がそれをさせたのだ。



「くっ……、まだまだ」


『お莫迦ッ! 距離を空けなッ……!!』



 男が気づいた時には、少年は既にそのふところにいた。

 人族にあるまじき速さ、常識外れの脚力。

 男を含め、その場にいた誰もが目で追うことすらできず、目の前の現実に、思考に、体が追い付かず動けないでいる。





 ドンッ!!!





 ただの殴打。

 何の技術も魔力も使っていない、ひたすらにシンプルなグーパンチが三メートルくらすの大男の鳩尾みぞおちにめり込んでいく。

 “闘鬼族とうきぞく”の男は、血と胃の物を盛大に吐き出し、失神する。



 勝敗は決した。



 場は静まり返る。



 誰もがその勝敗を分かっていた。知っていた、理解していた。……はずだった。



 頭から翼の生えた者、鱗のある者、獣のような耳を持つ者、様々な異形の姿を持つ怪物たちが集うこの場に置いて、その“学生”はあまりに非力で無力で侮蔑されるべき“階位最底辺の人族”なのだから。






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